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14:一秒でも一瞬でも長く

今日はバレンタインデー。よってあちこちから甘いチョコの匂いがする。
休み時間に目立つ女子がチョコを配ったりだとか、チョコを貰った男子をはやしたてたり、大抵が見慣れた光景だ。
その中で私は、机の中に入っているラッピング袋に手を触れため息をついた。

朝から先生は案の定、沢山のチョコをもらっていた。
SHRが終わった直後は、クラスの女子が駆け寄り渡していたり。

いつ渡せばいいのかタイミングが掴めず、あっという間に放課後になり、もう諦めようとした。


昇降口に向かう足。
けれど、ふと昨日の友人の言葉を思い出した。
せっかく「頑張れ」と言ってくれた友人に、なんと言えばいいのだろう。思いとどまった私は、昇降口とは別の場所へ、足は動いていた。


そこは教室からは少し遠く、原田先生がよく居る準備室だった。


「失礼します」

「ん、鈴木か?どうした」

「え、えぇと」


いざ本人を前にすると緊張で言葉が出ない。
どうすればいい、どうしたらいい、私の頭の中はそればっかりで混乱していた。
ぎゅっと手を握り、口を開いた。



こんなこと言うはずなかったのに。少し後悔した。


「何か言ったか?」

「いえっ!」


私が言った言葉は「教えて下さい」
我ながら呆れてしまった。けれど、教科書を持ってきていて良かったと安心した。


「よく分かりました。いつもありがとうございます」

「本当、鈴木は勉強熱心だよな」

「いえ…」


会話が途切れた。どうしよう、今しかないかもしれない、と深呼吸をしておずおずと話し掛けた。


「あの…先生」

「ん?」


カバンから震える手でチョコを取り出した。俯きながら差し出す。


「あのこれ、…日頃のお礼です!」

「あ、あぁ。チョコか」

「でも、迷惑ならいいんです」


先生今日沢山貰っていたし。と口籠もって呟くと、先生は笑った。私は思わず先生を見上げてしまった。


「いや、ありがとな。嬉しいよ」


私は自分の手から離れていくチョコを見ながらドキドキしていた。原田先生の笑顔にも、受け取ってもらえるチョコにも。



準備室には夕陽が差し込んでいて、そこはオレンジ色に染まる。

私は何かに浮かされたように、背を向けた原田先生の裾を掴んだ。



「先生…、好きです」




0504


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あきゅろす。
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