気が付けばクリスマスも新年もあっという間に過ぎていった。私と原田先生の関係は平行線を保ったまま交わることはなく、私だけ時間に置いていかれたみたいに、二月を迎えていた。 「ねね、千佳は誰か好きな人にチョコあげないの?」 休み時間、バレンタインデーに浮き足立つ周りの女子を他人事のように眺めていると、友人が声をかけてきた。 「あ!千佳にも友チョコあげるからね」 「ありがとう。私も友チョコは作るよ」 「楽しみにしてる!で、本命は作らないの?」 「……」 口を閉ざした私を友人はどう受けとめたのか、顎に手を当ててニヤリと笑う。 「じゃあ、今週の日曜日空けておいてね!」 「…チョコは自分で作る、よ」 「千佳の家に押し掛けるから!」 「………分かった」 始めは友人の言葉の意味が分からなかったが、今年のバレンタインは月曜日だったことに気付く。友人に押され渋々承諾した。私は押しには弱いみたいだ。 こうして日曜日。友人とチョコを作ることになった。二人で湯煎をしながら会話をする。 「うまく出来るといいね」だとか「ちゃんと渡すんだよ」と友人は語るけれど、私は曖昧に微笑むことしか出来なかった。 原田先生はチョコを沢山貰うだろうし、私からのチョコは迷惑ではないかと、心のどこかで考えていたからかもしれない。 そんな私に「頑張れ」と友人は言った。 その友人のいいところは、言いたくないことを察して深く詮索しないこと。言いたくなったら言ってね、という性格で我ながら良い友人に巡り合ったなと心底思った。 失敗をしたくなかったから簡単なチョコと、半分ダメ元で作って上手くいったトリュフを綺麗にラッピングをする。 リボンを結び終わったところで、横にいる友人を一瞥した。友人は手先が器用で、将来は料理系を志望しているからか、難易度の高いモノを作っており私の目が点になった。 「スゴいね」 「…でもさ、少し料理が下手でも頑張ってチョコを作って渡すほうが好感度いいと思うな」 だから千佳はチャンスなんだよー!と私の背中を叩きながら友人は笑った。 なんだか肩の荷が降りたみたいな感じがした。 「ありがと」 「ん?何が?」 「ううん。はい、一日早いけど友チョコ」 “何が”と聞く友人の白々しさに少し笑ってしまいそうになりそうだったが、友人は“ありがとう”の意味を分かってくれているのだろう。 私は出来たてのチョコを友人の口に押し込んだ。 090429 by確かに恋 |