[携帯モード] [URL送信]
11:スパンコール
それから、夜も更けてきたのでおいとますることにしたのだけど。
先生が送ってくれる、というから家の前まで送ってくれた。
二人だけの車内は、原田先生の匂いがして落ち着かなかったのは私だけの秘密。

私の制服にふわりと残っている移り香に、先生に包まれているみたい、なんて思いながらドキドキして眠れなかった。

今日もいつもどおりに席について、日課となったSHRの間は原田先生を見つめて、授業が始まる。


「あのさ…。鈴木が左之さんを好きになった理由って、ある?」


放課後、藤堂くんが私を呼び止めて唐突に話を切り出す。予想外の言葉で私は驚いた。


「先生を好きになった理由…」

「あ、いや深い意味はないんだけど、好きになるって―…」


どういうことか良く分からなくて。ぼそぼそと小さな声で藤堂くんは言う。それは藤堂くんの今までのイメージとはかけ離れていて、頬はほんのり赤く染まっている気がした。


「…私はね、気が付いたら目で追ってた」


そう気が付いたらいつの間にか。先生を好きになる気なんてさらさらなかったんだよ。



私はいつから原田先生に惹かれていたんだろう。
全然思いつかないけれど、多分。
一目見たときから、その真っ直ぐな瞳に囚われたんだろう。

それは一年目が終わった、二年目の春。クラス替えは済んで、新しいクラスで整列をして始業式の校長先生の言葉を聞いていた。
そして担任を発表する時、私のクラスの担任は原田先生だった。
周りの人たちは原田先生を知っていたみたいで、嬉しそうにはしゃいでいたのを覚えている。
去年、原田先生は三学年の担当だったから、例えば部活の顧問だとか授業担当だったとかそういう関わりが私には一切無くて、その日初めて先生の名前を知った。
廊下ですれ違ったことはあるけれど、あまり気にしていなかったから。


「俺は原田左之助。一年間このクラスの担任を受け持つことになった。これからよろしくな」


黒板にクセのある字を書きながら、原田先生は笑顔を向けた。
私を除く大抵のクラスの女子は黄色い声を上げたのだった。




0420


[←][→]

あきゅろす。
無料HPエムペ!