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10:いただきます

「ただいま」

「遅いよー、左之さん」


藤堂くんと二人、リビングでニュース番組を見ながら先生の帰りを待っていると、玄関先から疲労困憊したようなけだるい感じのあいさつが聞こえてきた。それに藤堂くんが反応して、リビングから大きな声を出した。


「何か靴が多かったんだけ、ど」


とリビングのドアを開ける原田先生と視線が交わった。私はどきまぎしながら挨拶をする。


「こ、こんばんは先生」

「…靴は鈴木のか。もう真っ暗だぞ、帰らなくていいのか?」

「それはオレが鈴木に、左之さんの手料理を食っていかせようと思って、残ってもらっていたんだ」

「…迷惑だったら帰ります」


母親に“食べてくる”と伝えたから、私の分の夕食は用意していないだろう。コンビニでも寄っておにぎりでも買って食べようかなと思っていたら原田先生が口を開いた。


「まぁ、平助がそう言ってたなら、このまま帰すにも悪ぃしな。折角待ってくれてたし作ってやるよ」


言葉とは裏腹に、気合いの入ったように腕を捲ってキッチンに向かっていく原田先生を見ながら、藤堂くんと目を合わせてクスッと笑った。

それから、リビングは美味しそうな匂いが立ちこめる。原田先生がエプロン姿で夕飯の準備をしていた。原田先生のエプロン姿ってレアだなと思いつつ、笑いそうになってしまった。


「あのエプロン可愛いだろ?俺が買ってきたんだ」


指を指しながら藤堂くんが笑顔でいう。あれとはエプロンのことで、エプロンの真ん中にはでかいクマちゃんがプリントされていた。いつもの原田先生とは似てもつかないイメージで、愛らしく思えた。


「おい鈴木、笑うなよ」

「…すみません」


堪えていた笑いが思わず吹き出て、一旦手を止めて原田先生は振り向きほのかに赤い顔で忠告した。

私は藤堂くんに促されて、ダイニングのイスに座る。隣には藤堂くん、目の前には原田先生が席に着いた。目の前にはプロが作ったのではないか、と思うほどの豪華な和食。遠慮せずに食えよ!と藤堂くんは、お茶碗に大盛りのご飯を乗せてくれた。いただきますと言い、おかずをつまむ。


「あ、おいしい…」


口に入れた原田先生の手料理は、見た目からもとてもおいしくて言葉が漏れた。それに藤堂くんが賛同する。


「そうだろ、左之さんの料理はうまいんだよな」

「おいしいなら作った甲斐があったもんだ」

「藤堂くんは毎日食べられるんだよね…、羨ましいな」


ポツリ本音が零れる。私の言葉を聞いてか、藤堂くんはにやりと笑って爆弾を落とした。
別に藤堂くんにそんな言葉を催促するように言ったわけじゃなくて、ただもう一度食べたいなと純粋に感動しただけなのだ。断じて疾しい気持ちがあった訳ではない。


「じゃあ、また食べに来いよ。いいよな左之さん!」

「お、そうか。俺は別に構わねぇよ」

「…あ、ありがとうございます」


とりあえず私は許可を頂いたので少し俯きながらお礼を言った。




0409


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