先生というのは、私にとっての憧れであった。 私の交友関係の親を除く唯一の身近な年上で、接する期間も長く、教育者としても何においても私は尊敬していた。 高校に入学して二年目、私は初めてあの先生に会った。 原田先生は、若くてカッコよくてみんなに好かれる、いわば人気者。そういう人。私はずけずけとテリトリーに入り込んでくる人は苦手だったから、先生も同じように苦手意識を持っていた。 高校なんて大学に行くための通過点にしか考えてなかった私。だから担任といっても、必要以上に原田先生とは関わることはないんだろうな、と考えていた昔の自分が懐かしく思えた。 「鈴木?」 静かにドアが開いて、原田先生が顔を覗かせる。 私は下校時間も過ぎた教室で、一人窓からまだ蕾のままの桜を見ていた。 「先生。…もうすぐ桜も咲きますね」 「そうだな」 無言で時が流れる。原田先生と隣にいる、それだけで私は嬉しかった。 「…暗くなる前に早く帰れよ」 「はい…」 先生は後ろ姿で私にひらひらと手を振り、教室を出ていった。 荷物を鞄に詰め込みながら、廊下を歩く。廊下は賑やかなお昼時とはまったく違い静まっていて、西窓から夕日が差し込んでいた。グラウンドから運動部の掛け声を聞きながら、窓から見た橙色と桃色のコントラストが頭に浮かんだ。 今年の一年間、さまざまな思い出が頭を駆け巡る。 時間は無常にも、私の意志とは裏腹に刻々と過ぎていくのだ。 ねぇ先生。今更この気持ち、捨てられませんよ。 0215/0319 By Shady |