薄暗い小さな部屋はしんと静まり返っていた。力強い視線が私を射ぬく。その鋭さに思わず背筋が伸びた。 これはまるで詰問かと頭の片隅で夕月は思う。が相手にしてみればいきなり敷地内に入って来ていた、という不審人物なので返す言葉も見つからない。 拘束された両腕が縄で擦れて痛むのを客観的に感じながら、心の中で葛藤していた夕月は口を開いた。 土方は待っていた。 目の前のみすぼらしい女が間者とは一切思えなかったが、(その前に中庭に倒れるという大胆なことをする奴がいるのだろうか。)念のためだ。よく尋問拷問で使う離れの個室に連れてきた。もちろんこいつに無理強いする気はないのだ。素直に話してくれるのなら。 近藤を呼びにいこうと藤堂の部屋を出た土方だったが、女がもし敵だったのならわざわざ近藤を呼んで危険に晒すことはないのではないかと思いとどまる。裏の汚れ仕事は自分がやればいいのだ。 そして土方は夕月に対して「お前は長州の間者か」と率直に問いただした。 「間者ではありません。…けど―」 「けど?」 だが夕月は無言のまま。 その姿勢に土方は眉を潜めた。 一方夕月は迷っていた。本当のことを話すべきなのかと。 だがこのままでは埒が空かなくて。 「私は――」 夕月は静寂を打ち破りぽつりぽつりと語り始めた。 夕月は有りのままを土方に話した。 土方に信じてもらいたいが、こんな現実味のない話を信じられないだろう。ただ、夕月は全てを吐露してしまいたかったのかもしれない。 未来から来たということ、新選組のこと、…そして羅刹のこと。千鶴…母さまのことと歴史については差し当たりなく伏せたけども。 夕月の語りが終わると土方は長いため息を吐いた。 「……そうか」 「信じるんですか?」 あっさりと信じる土方に目を丸くして夕月が問うと土方は苦笑した。 「嘘をついていても、機密事項の羅刹を知っている以上、どっちみちお前も新選組内で監視だがな」 「…そうですか」 監視と聞いても顔色を変えずに、夕月は真逆、ほっと胸を撫で下ろす。 夕月はただ母さまを幸せにしたいだけなのだ。母さまが新選組にいるのならば、私も近くに居たい。 あんな悲しそうな笑みの日々はもう見たくない。夕月が願うのは優しい笑顔、それだけだった。 |