「本当に来てくれたんだね」 「…一応約束しましたから」 先に来ていた支院の隣に一条が座る。 風が吹き、ふわりと甘い香りが漂う。 「支院ちゃん、香水してるの?」 「…ああ、友人に掛けられたんですよ」 「へぇ、可愛いね」 「…は?」 脈絡の無さに思わずそんな声を上げる。 「ギャップがなかなか良い感じだよ」 …おめでたい頭だことだ 「あれ、怒った?」 「別に怒ってないです」 (「…呆れてはいるけれど」) 「なら良かった」 そう言って笑う一条の髪が、月明かりで輝く。 まるで、すぐそこに月が在るかの様に… 「どうかしたの?」 不思議そうな声 優しくしないで欲しい 私は逃げているだけの臆病者なのだから 「…今日はもう遅いし、また明日会おう」 そう言って一条が立ち上がる。 「待って」 気が付くとそう言っていた。 「何、支院ちゃん」 「…また、明日…」 「うん、明日」 遠退いて行く背中を見送る (「…何を、言おうとしていたんだ私は」) もう執着することは止めたんだ 何も感じない 何も求めない そう決めたんだ …さあ帰ろう 私は砦を後にする 9/2鄙乃 |