「頭痛い」 最近寝不足が続いていたせいか、ガンガンと激しい頭痛がする。 「医務室行ってきなよ」 幼なじみが勧めるので、私は授業が終わった後、医務室に向かった。 ノックして、ドアを開ける。 「…夜間部」 ぽつり漏れる言葉。 そこには、夜間部の皆さま方がいらしていた。 「えっ、水限先輩?」 私にいち早く気が付いたのは、風紀委員の黒住さん。 「どうしたんですか」 「少し頭痛くて来たんだけど…」 先生いないのね…。と頭を押さえながら呟く。 「ベッド余ってるから使いなよ、支院ちゃん。僕が看病するからみんなは犯人探してきてね!」 突然、一条が爆弾を落とした。 その発言にぎょっと黒住さんが驚いたのが分かった。 黒住さんは一条を引っ張り、何やらこそこそと二人して内緒話をしている。 「ちょっと一条先輩。水限先輩を襲わないでください!」 「勿論じゃないか優姫ちゃん。僕は犯人程、血に飢えてないよ」 「…一条先輩を信用しますからね」 そうして夜間部の皆さんと黒住さんは、しぶしぶと医務室を出ていく。 それは一条と二人きりを示していて。 とりあえず頭が痛かった私は、一条に言われたとおり空いているベッドに横になった。 「支院ちゃん…」 「どうしたんですか?」 「ううん、なんでもないよ」 椅子を引っ張り出して、ベッドの脇に座る一条。 はぐらかすような、苦笑いの一条に少し苛立った。 「言いたいことはちゃんと言ってください」 一条は驚いたように目を開き、そしてゆっくり口をひらいた。 「…事件の犯人の気持ちも分からなくないなぁ、と思っただけだよ」 「事件って…、黒住さんのクラスの人が貧血で倒れた、というやつですか…?」 「…そう」 「好きな子を求める気持ちって、抑えきれない…から」 「…」 「………」 暫し静寂が私たちを包む。 「じゃあ、じゃあ一条さんはその。今、抑えられない…?」 「…そうだよ」 おずおずと投げ掛けた質問は即答され、ばさりと私が寝ているベッドに一条が覆い被さる。 心臓の音が伝わってしまうのではないかと思う程、激しく高鳴る。 「支院ちゃん、ドキドキしてる」 「あたりまえじゃないですか」 小さく笑って、一条は肩口に顔を埋めた。 するすると口唇が首筋に上がってくる。 ひやっとする感触に、たじろいた。 首筋で一条の口が開く。 次に来る痛みを想像して、ギュッと目を瞑った。 …けれど、いつまで経っても痛みが来ないのでゆっくり目を開ける。 「一条、さん」 「…でも、僕はこれで我慢しておくよ」 口唇を掠める熱。 啄むように何度も。 ゆっくりと離される口唇に名残惜しさを感じながら、私は言葉を口にする。 「…好き。私は一条さんの側にいたい」 「僕も支院ちゃんが誰よりも好きだ」 伸びてくる腕に身体を預ける。 私は一条さんが好き。 僕は支院ちゃんが好きだ。 それは誰の想いにも負けないモノ。 それだけは、変わらない。 私たちは罪を重ね続ける。 その抱擁を月だけが、じっと見ていた。 -背月遊戯fin- 12/30 九条 |