私は空にある月から目をそらし、湖に映る月をじっと見ていた。 隣には一条が(勝手に)座り、二人共無言のまま時が過ぎていく。 けれど、支院にとって無音は心地良いものだった。 虫の音、木々の騷めき、夜独特の空気。 自然はいい。疲れを癒してくれるから…… 「ねぇ支院ちゃん」 心地良い沈黙を一条が破る 「なんですか?」 支院は目線を一条に向けることなく、遠くの方をぼんやりと見つめていた。 「…何で君はここにいるの?」 何を言うと思えば…と支院は呆れたように言葉を返す。 「その言葉、そっくりお返ししますよ」 「でも、まぁ。あえていうなら。この生活が疲れるからここにいる、…ですね。 ――この場所、好きなんです。汚らわしい日常を、忘れられる気がして」 支院は目を伏せて、ぽつりぽつりと話した。 「…そっか。」 「何か変なコト話しちゃいましたね。忘れて下さい。」 支院はゆっくりと立ちあがり、一条の眼を見た。 にこり、と笑っているのに、冷たい瞳。 「…っ」 どくり、と一条の何かがざわめいた。 「じゃあ、一条さん、私帰りますね」 一礼して踵を返す支院。 「あ、…支院ちゃん!」 「また明日、会えないかな?明日もここで!」 支院の足は止まり、振り向かずに言った。 「かまいませんよ」 一条がはっとして辺りを見ると、誰もいなかった。 「…何やってんだろ、僕」 くしゃと自分の髪を掻き上げると、一条もまた森を去っていった。 そんな一条を見ていたのは空に浮かぶ月、のみ―― 8/25・31~9/1ぷちこ |