雨は僕の代わりに泣いてくれてるみたいに
ぽつぽつと地面を濡らしていく
あれから、当然というように支院ちゃんと会うことはなかった。
僕が枢を責めることはまずなくて、また日常が始まるだけ。
「……」
けれど、自分の腕が覚えている温かな支院ちゃんのぬくもりが、消えていく。それが怖かった。
でも僕が支院ちゃんのことを嘆いている時間はなくて。
お祖父さま、一翁が来訪したり、新しく夜間部に入った紅まり亜が一波乱起こしたりと、僕のまわりは慌ただしさで包まれていた。
今更、驚くほどの時間が過ぎていたのに気が付いた。
「そっちは駄目だよ。普通科がいる時間だから。まり亜!」
まり亜が普通科の時間に、勝手に動くから、普通科の皆に注目されている。
…大変なことになりそうだ。僕が思ったのもつかの間。
「…?」
視線を感じて辺りをみると。思わず、笑顔が引きつった。
「拓麻さま」
「一条先輩!」
ギラギラと目が怪しく光る女の子達に囲まれたと思ったら、僕を襲ってきて。
怖くて思わず逃げた。
女の子達は相変わらず追いかけてきて、僕は必死に逃げて撒く。
その内にまり亜に逃げられて。僕はため息をついた。
「あ、優姫ちゃん!」
優姫ちゃんも逃げていたみたいで、ばったりと会う。
「…やぁ君も追い掛けられて大変だね」
「一条センパ…」
世間話は、流れ的に枢の話になって。
「でも偉そーなクセに枢はそういうのを望まないから…
だからこうして僕がイヤな役目を引き受けてるわけさ」
僕はため息を軽くつきながら言うと、優姫ちゃんはやわらかく微笑んだ。
…優姫ちゃんが、少し支院ちゃんと被って、胸がつかえた。
優姫ちゃんと別れてから、僕はまり亜を探していた。
「あ、…支院ちゃ、ん」
思わず声が漏れる。
ちらりと見えた後ろ姿に、懐かしさと抱き締めたい衝動に駆られる。
けど自粛して、僕は背を向けて歩く。
「……」
支院ちゃんが、振り返って僕を見ていたなんて知らなかった。
11/28 九条 |