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さいはてのあくむ

船の中に入るとそこには天人がたくさんいた。地球しか知らなかった故、天人を殆どといえる程見たことがない私にとっては奇妙な光景だった。
私は阿伏兎の後に続く。その後ろにあいつが着いてきて気に障ったけれども。


「いきなり連れてきたしなァ、部屋はどうすっか…」


通路を歩きながら阿伏兎は言葉を零した。私には行き先はまだ分からぬまま。けど阿伏兎には目的地は明確らしくて、真っ直ぐ歩いていく。


「小さくても、汚くてもどこでも構わない。…ここら辺の通路でもいいのに」

「あのなァ、お前さんにそんなとこで寝ろとは思ってねぇよ。俺が拾ったんだ、ちゃんと面倒みてやるつもりなんだよ。」


正直、部屋なんてそんな大層なものを頂けるとは思ってもみなかったので、阿伏兎の言葉に少々驚いた。
なぜ阿伏兎はこんなにも私に優しく接してくれるのだろうか。
虫の息ほどの小さな声で「ありがと」と呟く。別に気付いてくれなくても構わない。ただの自己満足だ。



「そうそう阿伏兎、この子の部屋は俺の部屋だから」


優しさに触れて心が久しぶりにぽかぽかと温まっている時に、後ろから妙に機嫌の良い言葉が聞こえた。


「……団長ォ、何言ってんだ?」

「ハイ決定ネ。で、キミの名前は?」

「…」

「言わないと殺しちゃうぞ」


ペラペラと話を進めていくあいつ。名前なんて教えるものかと口を閉ざしていると、あいつの目がスッと細められ口角が上がる。


「…」

「名前だ!名前」


これ以上黙っていたらヤバかったのだろうか、阿伏兎が焦ったようにあっさりとバラしてしまった。


「阿伏兎に聞いてないんだけど。…へぇ、名前って言うんだ。ダサい名前だね」


その言葉にカッとなって瞬間、私は番傘の持っていない右手でストレートを繰り出していた。
せっかく母が付けてくれた名前なのだ、侮辱することは許さない。


「お、っと。危ないなァ」


だがそれも、いとも簡単にひょいと避けられる。
私に笑顔を向けるそいつにムカつくのと悔しさに口唇を噛んだ。


「団長、あまり名前をからかうな」

「しょーがないなァ。じゃ、行こうか名前」

「…嫌」

「名前、オレ怒っちゃうよー?…じゃ阿伏兎、後はよろしく」


“怒る”といいつつ笑顔のまま。そのまま腕を強く引かれた。
阿伏兎に助けを請うが“諦めろ”という視線を向けてきた。私は振り返りつつだんだんと小さくなる阿伏兎はバツの悪そうな顔を私に向けていた。

私があいつにずるずると引きずられる形は、すれ違う天人たちが興味深そうに見てきたのだった。
あいつの細腕のどこにその力強さが隠れているのかと不思議に思う。けど“夜兎族か…”とスグ答えにたどり着いた。



あいつは人気のない薄暗くひっそりとした場所にある一室に入り、捕まれていた腕を離される。そこは見事に鬱血していた。じわりと痛む腕にジッとあいつの目を見た。


「ハハッ。その眼、好きだなァ」


あいつは小さく呟き、でもそれは私の耳に入って、やっぱりあいつは笑うのだ。


阿伏兎がよく分からない。それに自分も。


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あきゅろす。
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