阿伏兎に繋がれる手は温かく、なんだかお父さんという感じがして安心した。まだ出会って一刻も経っていないというのに。
「どこ行くの」
ぽつりと言葉を漏らすと阿伏兎は笑う。「ついてくれば分かるさ」と。
「じゃあ同族って何」
私に手を差し伸べてきた時に言った言葉、気がかりなのはそれだけだった。
「お前さんは自分が地球産だと思ってるのか?」
「は?…だって産まれたときから地球にいるんだよ」
「…」
阿伏兎の眉が寄る。何も私は可笑しなことは言っていない、のに。
何故か背筋に汗が滲みででくるみたいだ。
「お前、名前は…夜兎族だ。地球産じゃねぇよ」
「夜兎族?何、言って、んの」
笑い飛ばそうと思っても、乾いた笑いしか出てこない。阿伏兎は真剣な様子で私を射る。
「証拠なんて――」
ないでしょう、という前に阿伏兎が口を開き遮られた。
「証拠ならあるさ。夜兎族の特徴の、透き通るほどの白い肌に、日の光が苦手な俺たちも持っている傘。これだけもあれば十分だろう?
名前は日光が苦手だったり、人並み以上の怪力があったりことはないか」
「そんなこと…」
違うと思いつつも、思い当たる節が多々あった。
昔から太陽を見るのがイヤで、家に籠もりがちだったこととかが走馬灯のように頭の中を駆け抜けた。
「ウソ…」
母は、周りの人たちと少し違うだけと言っていたのに、信じて疑わなかったのに。私の中の何かががらがらと崩れていった。
「着いたぞ」
雨も小降りになった。
阿伏兎に手を引かれてやってきたのは大きな船の前だった。
口を閉ざしたままの私は、そこで阿伏兎に手を離される。
「遅かったネ、阿伏兎」
出入口の前には、ニコニコと笑顔を貼りつけたピンク髪のお兄さんが佇んでいた。
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