まるマ
8 *** 「…………リ、ユーリッ!」 「………………こん、らっど……?」 「貴方は、また無茶をして……!」 ぼんやりとした意識の中で、体を強く抱き締められる。 加減を知らないかのような力に痛みを感じつつも、恐らくそれはコンラッドが感じた痛みなのだろうと思った。もしも、自分がコンラッドの立場に立てば、恐らくとても怖かったと思うから。 「……あの……二人、は……?」 「貴方は、他人の心配ばかり……! どれだけ俺が怖かったと思っているんですかッ!?」 コンラッドの腕の力が、強くなる。 その顔は見えない。しかし、あまりに悲痛な声は、今、コンラッドがどんな表情をしているか、知らしめた。 それに、徐々に意識がはっきりとしてくると申し訳なさが込み上げてきた。 ユーリは間違った事をしたとは思っていない。あの時の最善だったと思う。しかし、コンラッドに心配を掛けたのもまた真実だ。 「ごめん……」 「心臓が、止まるかと……! 貴方を失くすかと……怖かった……!」 かたかたと震える指先は、とても冷たくなっていた。余程、強く握りしめていたのだろう。 彼らしくない。それでもか、それ故にか、どうしようもなく胸が痛んだ。自分は、とても酷い事をしたのだと。 「貴方が誘拐されたと聞いた時も怖かったけど、その何十倍も!」 「……コンラッド」 「貴方は、優しすぎる。自分に危害を加えた人間にまで」 「ごめん、でも、アンタがしようとしたのは間違ってるよ」 「貴方に何かあるくらいなら、何を犠牲にしたって構わない」 「コンラッド……」 ユーリは、どうしていいか分からなくなった。コンラッドを傷付けたくなかったが、どんな言葉を紡げば、彼を納得させられたのだろう。安心させられたのだろう。 否、彼の望む言葉は分かっていた。それでもその言葉に同意は出来ないし、破るだろう約束も出来ない。 これ以上コンラッドを傷付けたくなくて、ユーリには何も言葉を出す事が出来なかった。 「……うう」 二人の沈黙の中、後ろから聞こえた呻き声に、反射的に振り返る。そこには、縄で厳重に縛られたゲオクとフリードリヒがいた。 「良かった、生きてた……」 「貴方が、魔術で助けたんです。俺には、貴方が命懸けで助けたものを殺すなんて出来ませんから」 安堵の息を漏らすユーリに、コンラッドは二人を強く睨み付けながら言う。ユーリを誘拐した事に対し、殺しても気が済まない程に彼は怒っていた。 しかし、それでも殺さないでくれたのだ。ユーリの願いを聞き届けてくれて。 「コンラッド、ありがとう」 満面の笑みをコンラッドに向けて、それからユーリは二人に向き直る。二人の体が、強張った。 「大丈夫か?」 「……」 答えはない。しかし、目立った外傷はなさそうだ。静かに息を漏らす。 さっきの今で、そう彼らの対応が変わるとは思ってはいない。だから、大した反応を期待していた訳ではなかったので、それを確認するとユーリは再びコンラッドに向き直った。 ←*#→ [戻る] |