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まるマ


「…………陛下が知る事はないだろうな、こういう城が湿っぽい空気は」
「そりゃねぇ、あの方がいる限りはこんな風になる事なんてないでしょうからねぇ」

 この馬鹿だって、貴方に光を与えられた一人だ。
 貴方が来てからよく笑うようになった。貴方がいるから、今コイツはこういう笑みを俺の横で浮かべている。
 この国の誰もが、深い傷を負っていた。誰もが、悲しみを胸に抱えていた。
 それを貴方は癒していった。貴方は知らなかっただろうけれど。無意識の内にだったのだろうけど。

「隊長、今何か失礼な事考えませんでした?」
「お前に『失礼』なんてある訳がないだろうが」
「ははは。ったく、こういう人だよなぁ、アンタは」

 乾いた笑い声が、青い空の下で響いた。
 何処か呆れたような口調で言いながらも、ヨザックは俺の隣に腰を下ろす。
 それを視界の端に捉えて、俺の口からはまた溜め息が零れ落ちた。邪魔だと追い払うの事すらもう面倒だ。


「世界が一つだったら、と思わないか?」
「………珍しいな、アンタが弱音なんて」
「……煩い。悪かった、聞かなかった事にしろ」

 無意識の内に零れ落ちた言葉に、苦笑が━━自嘲気味な笑いが零れる。吐き出した溜め息すらも、俺を嘲笑っているような気がした。
 本当にらしくない事を言ったと自分でも思う。一体何を言っているのだか、俺は。
 頭を抱えたくなった。
 後悔する俺の隣で、ヨザックの口からは小さな溜め息が一つ漏れたような気がした。

「………そうだったらいいなと思いますよ。いつでも陛下がここにいる世界なんて、幸せ以外の何者でもない。そんなの誰もが思ってる事だ」

 視線だけを動かしてそちらを見ると、ヨザックは何処か遠い場所を見ていた。
 ここには居ないユーリを、見ているような気がした。


「隊長、陛下が居て幸せなんですね」
「当たり前だろうが」


 世界が優しく見えるようになったのは、貴方のお陰。
 貴方と同じ時を生きられるだけでも幸せだというのに、それでももっとと願ってしまう事は止められない。








END

2008.8.9


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