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まるマ



「で?なんで弟のお友達がいる訳?」

 久しぶりの家族写真だって聞いたけど、とあからさまに不機嫌そうな顔をしいるのは渋谷のお兄さんだ。
 美子さんと渋谷父に、「こら」とたしなめられても尚も態度は変えない。流石にここまで来ると大人気ない。
 まぁ、確かに分からないでもないけど。大切な大切な大好きな弟が、自分よりも僕にべったりなんだから。いくら友人だとは言え、兄としては悔しいのだろう。

「こんにちは、お友達のお兄さん。でも、僕がいないと渋谷は絶対に写りませんよ?説得するの大変だったんですからね?」
「………むぅ」

 そう言って笑顔を浮かべると、渋谷のお兄さんは黙り込んでしまった。こういう所はそっくりだ。観察していると、似てないようでこの兄弟は似ている。
 相当なブラコンである渋谷のお兄さんは、やはり僕を見て悔しそうにしているけど。それはまぁいつもの事だから僕は気にしない。この兄に歓迎された事なんてないし。
 僕は別に嫌いじゃないけど。まぁ何と言っても渋谷のお兄さんだし。そういう辺りではあまり変わらないような気がするけど。


「さぁさぁ、二人とも並んでちょうだいな。カメラはセルフタイマーよ」

 カメラを合わせていた美子さんは、まだ何か続けそうな僕らを呼んだ。
 そのカメラの前にはソファーが設置されていた。僕と渋谷はソファーに座り、渋谷のお母さんとお兄さんはその後ろに立った。
 渋谷のお父さんはカメラの所に居たけど、押したらこちらに来るのだろう。

「みんな、ちゃんとカメラを見てね。ウマちゃん、いいわよ、押してちょうだい」
「んじゃ、押すからなー」

 皆カメラの方を見ている。
 この一枚もまた、きっとアルバムに入れられるのだろう。渋谷の成長を記録して来たアルバムに。
 生まれた時から中学時代まで、渋谷の成長を記録して来たアルバム。僕もそれと同じように、渋谷と出会ってからの記憶は頭の中に確かにある。
 始めて渋谷を見た時の事は勿論だけど、廊下ですれ違った時、教室で皆に囲まれている様子……僕が見たものは全部全部残っている。
 長い間、僕は渋谷という存在をずっと意識していたのだから。関わる事はなかったけど、見守っていた。渋谷が視界に入る度に意識して、周りが気付かない程度にその姿を見ていた。

 僕が、僕の魂の――四千年という長い秘密を分かち合えるかも知れない存在。
 渋谷という存在を知り、その傍に居たいと思った理由は間違いなくそうだった。
 初めに思ったのは、初めて僕が見た時は「渋谷有利」という存在ではなくて、「僕を受け入れてくれる」存在だったんだろう。
 渋谷には悪いとは思う。ごめんね、渋谷。君はそれを知ったら悲しむだろうか、それとも怒るだろうか。
 いや、どちらでもないのだろう。君はとても優しいから。ただ、「そっか」と笑うんだろうね。それから今の事を聞くんだろうね。
 君が大切にするのは、過ぎた過去でもまだ分からない未来でもなく、今この瞬間なのだから。だから君は過去の事なんて絶対に責めない。
 だって、今僕は渋谷を本当に好きだと思っている。それを渋谷はちゃんと分かっているから。

 一つ一つ、渋谷を知る度に変わったんだ。温かい笑顔や、皆に分け隔てなく優しい事や、自分よりも他人を優先してしまう馬鹿な所だとか……触れる度に、好きになった。「渋谷有利」という存在が好きになった。
 アルバムのように降り積もっていったものは――記憶は、とても温かなもので。


 シャッター音がやけに鮮明に響いた。
 僕の中にこの日の事は、きっと大切な思い出として残るだろう。何も忘れる事はない僕だけど、ただ記憶として残るのではなく大切な思い出として。
 きっと、後で現像して貰うだろう写真は僕の宝物になる。








END

2008.5.18


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