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まるマ
11

「……すみません」
「……え?」

 だけど、身を硬くしたおれに振って来た言葉は、謝罪の言葉だった。
 思いもしなかった言葉に、おれはコンラッドを凝視した。

「貴方の気持ちも聞かずに……言い過ぎました」
「コン……」
「貴方が、守られるだけは嫌いだと…知っていたのに」

 済まなそうに謝るコンラッドの姿は、まるで大型犬が項垂れているようだった。

「貴方に危険な事など、させたくないんです」
「……うん」
「貴方にもしもの事があったらと、考えるだけで怖くてたまらない」
「今日だって、心臓が止まるかと思いました」
「……うん」

 ぽつりぽつりと落とされるような呟きに、おれはただ頷いた。
 苦笑が零れそうになった。同じなんだ。コンラッドも同じなんだ。
 大切に思ってくれているからこそあそこまで反対したし、あそこまで怒っていたんだ。

「すみません、ユーリ。何よりも優先すべきは貴方の気持ちなのに、それを無視して俺の感情であんなに怒鳴って貴方を傷付けてしまうなんて」
「もういいよ、コンラッド。あんたの気持ちは分かったから。おれの為、なんだろ?」
「違うんです、ユーリ」
「何が……?」
「それだけじゃない」
「コンラッド?」

俯くコンラッドに、今度はおれがコンラッドの顔を覗きこむ形になる。

「貴方に、いらないと言われたような気がして……」
「コンラッド?」
「貴方が剣を持ちたいのは、俺と居たくないからかとか、自分で身を守れるようになった貴方には俺はいらないのかとか……考え出したら止まらなくなってしまって……」

 普段のコンラッドからは想像出来ないくらい弱弱しい声音で、コンラッドはらしくなく胸の内を吐露した。
 おれは思わず、目を見開いてコンラッドを見つめてしまった。
 そして、何処か泣きそうな表情のコンラッドと視線が合う。同時に、ヨザックの言葉が頭に蘇ってきた。


『アイツも不器用ですからねぇ。自分が不甲斐ないとか、坊っちゃんが剣を持つと言い出したのが自分が邪魔だからとか……色々、全部悪い方向に考えちゃうんですよね』

 急に、すとん、と何かが胸の中で落ち着いたような気がした。
 いつもいつもコンラッドは余裕の笑みを浮かべているイメージがあるけれど。コンラッドも不安になるし、後ろ向きにも弱気にもなる。格好いいだけの男じゃない。
 馬鹿だ、おれ。どうしてそんな風に思っていたんだろう。弱さが欠片もない人間なんて居る筈がないのに。
そんな風におれが思っていたからこそ、コンラッドは全てを胸の内に秘めるしかなかったのだろう。

「コンラッド……」
「情けないでしょう?呆れたでしょう?幻滅したでしょう?」

 何処か泣きそうなコンラッドには、普段の強さなど欠片も感じられなかった。だけど何故だろう、そんなコンラッドが尚更好きだと思う。

「幻滅、する筈ないだろ。嫌いになんてならないよ」
「ユー……」

 その大きな体を抱き締めてやると、コンラッドは突然の事に驚いている。それがなんだかやたら可愛いな、と苦笑が漏れそうになった。

「あんたはさ、剣を持てないおれを嫌いになるワケ?」
「なる訳ありません!ユーリはユーリです!」
「剣を持ちたいと思うのに、決心出来ないおれを情けないって幻滅する?」
「する訳ないじゃないですか!」
「それと一緒だよ」

 おれの言葉に、コンラッドは目を丸くしておれを凝視している。
 何を言うのが正しいかなんて分からないけど。

「おれがコンラッドに対する気持ちもそんな程度で変わるものじゃない。寧ろ、あんたにも人間らしい弱さがあってほっとくらいだよ」

 これは嘘偽りない本音。
 おれだって凄く情けない。言っている事とやっている事が違う。覚悟が全然足りなくて。
 だけど、コンラッドはそんなおれでもいいと言った。嬉しかったよ、本当に。

「ごめん、気付かなくて。いつだってあんたはおれの弱さとかにはちゃんと気付いてフォローしてくれるのに」

 いつかもっと強くなりたい。守れるように、支えられるように。

「待ってて、コンラッド。いつか、おれの覚悟が決まるまで」
「……はい」
「そしたら、あんたに剣を教えてもらいたな」
「……はい」

 コンラッドは、力強く頷いてくれた。
 抱き締め返してくれる温もりが、心地よかった。おれをいつも守ってくれるコンラッドの手だから。







END

2008.5.6






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