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まるマ
10

「真剣、だね……みんな」

 交わる剣、響く音。視線を逸らさないようにと、真っ直ぐに見る。
 気を抜けば、視線を逸らしてしまいそうに、逃げてしまいそうなくらい、みんな真剣だった。

「そりゃそうです、坊っちゃんを守れる事はこの上ない幸せですからね」
「おれ、なんか…の……覚悟じゃ、多分全然足りないと思う……」

 唇を痛いくらいに噛んで、少しだけ視線を落とした。
 自分の覚悟の足りなさを思い知らされた。

「うん、確かにおれは覚悟とか足りないと思う……」
「坊っちゃん?」
「おれ、平和主義だって言っただろ?争わないって」
「ええ、とても立派だと思います」
「だけど、周りが傷付くのを一人で黙って見てて、守られてるだけなのも嫌なんだ……」

 争うのは、傷つけ合うのは嫌だ。
 だけど、この世界でおれは何度死にかけただろうか。何度命を狙われ、コンラッドや周りのみんなに助けてもらっただろう。
 ……そして、何度、コンラッド達は傷付いただろう。おれを、守るために。

「だから剣を持ちたいと思った。使えるようになりたいって。だけどさ、やっぱり理想も譲れないんだよね……」
「そうですね。坊っちゃんの意思が弱い訳ではなく、強いものですよ。ですがねぇ、剣は人を傷けるもの……だから貴方には握って欲しくないんですよ」
「違う。違うよ、ヨザック」
「坊っちゃん?」

 不思議そうにこちらを見るヨザックを、おれは見つめた。静かに首を振って、言葉を紡ぐ。

「コンラッドもそう言った。だけど、コンラッドやグリエちゃん――ここにいる人達の剣は、守れる為のものだ。おれを、国を、民を守れる為の剣なんだよ。だから、そんな事言わないでよ」

 悲しかった。自嘲するような、己を責めるようなコンラッドとヨザックが。
 人を斬った事を、斬り続ける事を悔いているのかも知れない。己を責めているのかも知れない。そう、無意識の内にでも。


「同じ武器でも使う人によって違う。それを振るうグリエちゃんなら分かるだろ?使う人によって、守る為のものにも傷付ける為のもにもなる。――丁度昨日みたいに」
「坊ちゃん……」
「剣は人を傷付けもするけど、守る為にあるとおれは思うんだ」

 だから、ヨザックを真っ直ぐに見て言った。視線を微塵も逸らすことなく。
 分かって欲しかった。剣の重さを知るヨザックだからこそ、それだけではないのだと。優しく、温かなものでもあるのだと。

「だからおれも、いつかはみんなを守れるようになりたい。守られてるだけは嫌なんだ。みんなを守れるように、いつか剣を持てるようになりたい。今はまだ、そんなに覚悟がないけど……」

 自分でも情けないとは思う。コンラッドにあれだけの事を言って、騒動を起こして。結局こう終わるだなんて。口だけみたいだ。

(――だけど)

 だけど、やはりこんな気持ちで剣を持っては、剣を持つ人達に――コンラッドやヨザックに失礼だと思う。みんな生半可な気持ちで持つ事を選び、持ち続けているわけではないのだから。

「ヨザ――」

 申し訳なさから俯いていた顔をゆっくりと上げる。不快感に表情を歪めているだろうヨザックを想像していたのだが、それは全く予想と反していた。
 柔らかな微笑を浮かべ、それから何かに気付いたのかにやにやとからかうように笑い始めた。


「ユーリ」


 はっきりとした、それでも何処か躊躇いを含むような声がその場に響いた。おれの後ろ、そしてヨッザクの視線の先。
 その声の主が誰かなど、直ぐにわかった。だけど、だからこそ振り返りたくはなかった。振り返るのが怖かった。

「ユーリ」

 もう一度呼ばれる。いつまでもこの儘ではいられない。仕方なくおれは振り返る。
 そこに居たのはやはりコンラッドで、ゆっくりと視線が合う。

「コン、ラッド……」

 何を言って良いか分からなかった。喉で何かが詰まっている感じ。上手く言葉が出てこない。
 こちらを見てくるコンラッドの瞳が、酷くおれを居心地悪くさせた。

「ヨザとの話を、聞かせて頂きました」

 びくっ、と体が揺れる。何を言われるか分からない恐怖から、顔を上げられない。コンラッドの顔を見れない。
 そんなおれに、コンラッドは膝を着き、しゃがんだ。おれの顔を覗き込むように、おれと視線を合わせられるように。



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