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まるマ


「………坊っちゃん」
「やだ」
「坊っちゃん、聞いて下さい」
「やだ」

 何も見たくなくて、何も聞きたくなくて。全てを拒絶出来たらいいのに、という願望が表に出て、おれはただ目と耳を閉ざした。
 固く固く、何も見えないように聞こえないようにと、目を瞑り耳を塞いだ。
 子供じみた逃避だ。だけどコンラッドはおれは子供なんだから、って言ってくれてたんだから。いいだろう?なぁコンラッド?

(………馬鹿みたいだ。嫌われた人にそうやって縋って)

 己の幼さに嫌気が差して来た時、唐突に揺れていた地面が止まり、おれの体が温もりに包み込まれる。
 瞼を開ければ全てが判明した。地面が揺れていないのは馬が止まったからで、体が温かいのはそれ止めたヨザックに抱き締めていたから。
 ヨザック……?声にならない呟きと共に、ゆっくりと後ろを振り返る。

「大丈夫ですよ。アイツを信じてやって下さいよ」
「………だって…っ!」
「アイツが坊っちゃんに声を掛けなかったのは、坊っちゃんと似たり寄ったりな事を考えてるからです、きっと」
「似たり寄ったり……?」
「アイツも不器用ですからねぇ。自分が不甲斐ないとか、坊っちゃんが剣を持つと言い出したのが自分が邪魔だからとか……色々、全部悪い方向に考えちゃうんですよねぇ」
「うそだ!コンラッド、がそんな事……!」
「嘘じゃありませんよ、アイツの世界は貴方を中心に回ってるんですから」

 ヨザックは苦笑を浮かべた。それがあまりに嬉しそうでありながらも、何処か複雑そうな雰囲気の気がして、おれは目一杯否定出来なかった。
 何がヨザックをそうさせているんだろう。疑問は尽きなかったけど、それを尋ねられるような雰囲気ではなかった。


「ねぇ、坊っちゃんは剣を握りたいんでしょう?」
「………うん」

 唐突に、ヨザックは話を切り替えた。
 それを何だろうと思いながらもおれは答える。不自然さはありながらも、ヨザックの声は真剣だったから。

「でしたら、明日にでも練兵場にでも来てみたらどうです?ちらっと剣を握る兵士の姿を見てみては?」
「兵士の?」

 ヨザックの言葉におれは首を傾げる。見てどうするのだろう。一緒に教えてくれるというのだろうか。
 どうして?と問おうとして、だけどそれよりも先にヨザックが答えた。

「オレには貴方がしたいと仰ってる事を止める権利なんてないんですよ」
「ヨザック?」
「いえ、陛下だから臣下だからっていうんじゃないですよ。そりゃね、王様に剣持たせるなんて問題あるでしょうね」

 王は守られるもの。本来ならば王が剣を持ち、戦わなければならない状況など作り出してはいけない。
 いつだかグウェンにも言われた言葉。同じようなものを、ヨザックは彼にしては珍しいくらい真剣に説いた。

「………だけど、貴方が持ちたいというのなら、誰にも止める権利はないでしょ?オレだってオレのする事を他人には止められたくない」
「うん」
「臣下としてではなく、貴方を――『シブヤ・ユーリ』という人間を大切に思う者としてなんです。止めたいと思うのも止めたくないと思うのも全てね。………分かるでしょ?」
「うん、大丈夫、分かる」

 ヨザックの言葉を噛み締めるように、その気持ちを忘れないように、おれはゆっくりと頷いた。
 おれは王様としても大切にされてるし、渋谷有利個人としても大切にされている。堪らなく嬉しいと思う。

「だからね、貴方の意思が代わらないと言うなら、オレが貴方に教えましょ」
「ヨザック!」
「貴方は人形じゃない。貴方が何か主張する時のの意志は強いものだし、否定なんて出来ないでしょ?」

 勢いよくヨザックを見ると、視線が合った。
 それから一呼吸おいて、ヨザックは言葉を続ける。

「……ただ、もう一度じっくり考えてみて欲しいんですよ。理想や現実や意志や何もかも、全てをひっくるめて。周りの事なんてどうでもいいから、貴方の本当の気持ちをね?貴方が本当にどうしたいのかをね?」

 曖昧に微笑を浮かべると、ヨザックは再び何事も無かったかのように馬を走らせ始めた。
 おれはそんなヨザックにもたれかかり、瞳を閉じた。
 馬の揺れが心地好い。
 ヨザックと一緒にいるのは、安心出来るし居心地だっていい。
 ……だけど、ただ、それだけ。それだけだった。





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