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まるマ




 一面の銀世界。遮るものなど何も存在しない、見渡す限りが真っ白な雪で覆われた景色。
 はらはらと空から落ちてくるそれは、舞うように柔らかく感じられて。
 それらが珍しいのか、ユーリは楽しそうに駆け出した。


「うわぁ真っ白ー!」

 随分と降り積もっていながらもそこまで堅くもない雪は、そこに足を乗せれば凹む。平らで白い場所をユーリは足跡を付けてゆく。
 一つまた一つと増えていくそれらが面白いのか、それはそれは楽しそうだ。はしゃぐように無邪気な表情で雪と戯れている。
 夜よりも深い、漆黒の色をした髪は、ユーリが動く度にさらさらとなびく。雪と黒とのコントラストが、眩しいくらいに綺麗だと思った。
 白というのは汚れのない――何者にも染まっていない純粋な色だが、黒というのもまた全ての色を混ぜ合わせた美しい色であるのだ。
 暫くユーリの姿にただ見とれていたのだが、その体が一度ぶるりと震えた。思ったより気温が寒かったらしい。

「ユーリ!ああ、だからもう一枚着て下さいと……!」

 風邪を引いてはいけないから、ともう一枚着て欲しかったのだが、元々着込んでいたユーリはそれを嫌がった。
 ユーリが平気だというのなら無理意地は出来ないし、と思っていたのだがやはり寒いらしい。
 ああ、本当にユーリに何かあってからでは遅いというのに。ユーリはいつも言う事など聞いてはくれない。

 念の為に、と持っていた上着をユーリに着せようと、少しあった距離を埋める為に走り出す。
 だが、それと同時にユーリもこちらに向かおうと走り出して……。

「コンラッド!……うわぁ!?」
「ああ、ユーリっ!」

 ……ユーリは転けた。見事に雪に足を取られてバランスを崩して。
 その体が地面にぶつからなかったのは、ギリギリで手を伸ばして自分の胸へと引き寄せたから。


「ユーリ、本当に危ないですから気を付けて下さい」

 腕の中にいるユーリを抱き締めて、安堵に息を吐く。
 幾ら雪が多少は柔らかいとはいえ、それはあくまでも多少であって転べば痛いに決まっている。下手をすれば捻挫してしまう可能性だってあるのだから。
 全く本当にユーリは心臓に悪いと思う。ユーリの行動一つ一つ全てに気が抜けない。いつだってこちらをハラハラさせてくれる。
 こうして傍にいなくては心配で心配で堪らない。

「うん、分かってんだけどさー」

 楽しくて、とユーリは小さく笑いを漏らした。ごめんと一応謝罪はするものの、こちらの心配を本当に分かっているのだろうか。
 小さく溜め息を漏らすと、距離が近かった所為か、ユーリはそれに気付いて問うて来る。



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