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まるマ


「そうだ、君……ああ、そんな風に言ったら失礼だよな、名前なんていうの?」
「ぼ……いや、私は……ヴォルフラム閣下の、一応親戚になる、じゃなくて…なります。ええと……ふ、フラムと申します」
「そっかぁ、親戚なら似てる筈だよねぇ!フラムさん、ね。おれはユーリ」
「ユーリ、陛下」

 とんでもなく不自然な自己紹介にも関わらず、ユーリからは一切ツッコミがなかった。表情からして疑う事もなく信じ込んでいるらしい。少しくらいは疑うかと思ったのだが。
 ……というか、寧ろ疑ってくれと思った。仮にも魔王なのだから、軽々しく他人を信用しては危険ではないか。

「ヴォルフと似たような顔に『陛下』だなんて言われると、なーんか変な感じ」

 ぽつりと溢された言葉に、その表情を見ると、ユーリは苦笑を浮かべていた。僕の事をどう思っているのだろうか。
 そんな僕の態度をどう思ったのか、ユーリは慌てて謝罪をして来た。

「あ、ごめん!うわぁ、男と似てるなんていったら気を悪くするよな!?」
「………い、え」
「でもアイツ可愛い顔してるから……ってこれじゃ言い訳か。本当ごめんな!」
「ユーリ、陛下は……」
「うん?」
「ヴォルフラム閣下と……婚約、なさっている、そうですが?」
「あちゃー。何でみんな知ってんだよー手違いだって言ってんのに」

 そりゃ、魔王の結婚だ婚約だというのが知れ渡らない筈がないだろうが。これだからコイツはへなちょこなんだ。
 そのユーリのセリフに、僕は呆れて溜め息が出そうになる。
 だが、その反面で、同時に僅かなショックも感じた。

「……手違い」

 要するに、それは全くその気はなかったと言う事だ。僕の事など、婚約したいという意味で好きではないという事。
 尤も、お互いの感情は最悪に近い状態だったのだから、当然と言えば当然だが。

「うーん、そうなんだよね実は。おれが作法とか知らなくてうっかり求婚しちゃって」
「ヴォルフラム、閣下の事は嫌い……?」

 どちらとも取れるユーリの言葉に、僕は恐る恐る問う。
 ユーリが嫌いだというのならば、大人しく身を引くしかあるまい。ユーリを傷付けたくはないし、それ以上ユーリに嫌われたくはない。
 想いなどそう簡単に消えるものではないが、少なくともユーリに対して彼を困らせる事だけはしたくないと思う。
「違うよ、嫌いじゃないって!」

 だが、ユーリははっきりとした声でそう言った。僅かにその口調は強いものだった。
 それは確かに否定の言葉と取って良いのだろう。深く沈みそうだった思考が一気に浮上して来る。

「ならば、何故……っ!」

 勢いの儘、口からは糾弾とも取れる問いが零れ落ちてしまう。
 何処か冷静な自分が、これではいけないと思ってはいるのだが、落ち着いてなどいられなかった。
 そう言ってくれるのであれば、何故ユーリは自分の気持ちを受け入れてくれないのか。逃げるばかりなのか。
 頭の中はぐるぐると疑問ばかりが回っていた。


「……ヴォルフは好きだけど友達だよ」

 そんな僕とは対照的に、僅かな沈黙を置いてユーリは口を開いた。
 一瞬だけ見せた、少しだけ寂しそうな表情。その理由が、僕には分からなかったが。

「てか、男同士だし!……ってのは言い訳かなぁ。……何て言うかさ、まず、おれがあんまり結婚だとか婚約だとか余裕ないっていうのかも」

 困惑した表情で、ユーリは髪をいじる。
 その様子は、どう表現したら良いのか、分からないように見えた。それに自分でも自分の気持ちがよく分かっていないのかも知れない。

「ぼ……いや、私が、貴方を好きだと言ったら、どうする……!?」

 それが堪らなく焦れったくて、気付けば僕は叫ぶように声を出していた。
 そんな事を言ってもらいたい訳ではないのだから。確かに嫌われているよりはずっと良いが、違う。僕はそんなに無欲じゃない。
 僕はユーリが好きで好きで堪らない。僕の事が嫌いではないのなら、ユーリにも同じように想って欲しいんだ。



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