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まるマ
エピローグ



 それから大した日にちも置かず、十数の男が兵士として志願して来た。
 恐らくは悪さを働いていた者、あの場にいたゴロツキ連中の全てになるだろう。
 丁度その話をユーリは聞いて、もう一度彼らに会いたいと言い出した。そして、コンラートとヨザックに連れられて来たのだ。

「……あ」

 見知った顔を見つけて、とてとてと小走りでその者へユーリは向かう。その後をコンラートとヨザックは追った。

「なぁ、アンタ、兵士として働くって決めたんだな?」
「へ、陛下ッ!」
「ああもう、楽にしていいってばー」

 慌てて敬礼する男達に、ユーリは苦笑を漏らした。
 確かに魔王への態度としては間違ってはいないが、あまりの変化に小さな笑いが漏れる。

「どうしたんだよ?そんな急にさぁー」
「オレ…いえ!私どもは、陛下の器の大きさに惚れましたッ!」

 小首を傾げながらの問いに答えたのは、あの時にユーリを拘束していた男だ。
 荒れているような雰囲気は抜けてはいないものの、ユーリに対する態度の変化だけは目を疑うばかりのもので。
 その他の男達も口々に叫ぶ。

「その寛大なお心と、民への慈悲と……全てにおいて、陛下以上に王に相応しい方はいませんッ!」
「陛下の御代をお守りしたいです!」

 それらは歓声に近く、ヨザックは苦笑を漏らした。
 ふと見れば、ユーリはユーリでそうまで言われる事が恥ずかしいのか、何処か照れ臭そうにしている。


「………しかし、陛下……」

 暫くして歓声も落ち着いた頃に、おずおずとあの男がユーリに声を掛けた。

「なに?」
「私は確かに『傷付けないから大人しくしていて欲しい』と申しましたが、それだけで何故……」

 戸惑うようなあの男に、ユーリはふわりと笑う。とても明るい、嬉しそうな笑顔。

「それだけじゃねーもん。アンタさ、あの日…転んでた子供を助けてただろ?」
「は?確かに…そのような事はしましたが……しかし、何故……?」
「んー見てたんだよな、おれ。駆け寄ろうと思ったらアンタが助けててさ。だからアンタ達はきっと本当は優しい人達なんだって分かってたからさ」

 不思議なくらいに深い、漆黒の瞳でユーリは男を見つめた。何処までも真っ直ぐで、強さを宿した瞳。
 敵わない、と小さく男が呟いたのをヨザックは確かに聞いていた。
 それだけの事で、他人を真っ直ぐに信じられる。身分などに囚われず誰にでも平等に接する。
 これが我らの陛下だ。誇らしいと思う。



「あいつら、ちゃんと変わって、行くんだろうなぁ」

 そこに人がいる事が分かるくらいの距離を彼らと置いてから、ユーリは呟いた。
 彼らがどうなっていくか、ユーリはそれが心配だったのだろう。しみじみと安心したように息を吐いていた。
 自分が変えたという自覚はないのだろうな、とヨザックは漏れそうになる苦笑を耐える。
 変わらない筈がない。ユーリに触れて、その真っ直ぐな瞳に見つめられて。

「人って変われるよな」

 ユーリは笑った。彼らのこれからを考えて。
 大変だろうとは思う。周囲の者は、変わった事をそう簡単には認めない。いつまでも悪い過去というのは引き出されがちだ。
 それでも、彼らにはユーリの言葉がある。ユーリが知っている、と言ってくれた。
 ただ一人だけでもそれを分かっていてくれる人がいるというのは、それだけで頑張れるだろう。

「ええ、そうですね」

 話を振られたコンラートは頷いて答えを返した。
 それから、眩しいものを見るようにユーリを見て、小さく呟いた。

「俺も貴方に変えて頂きましたよ」

 その声はユーリには届かない。それでもコンラートは満足げに微笑を浮かべていた。
 二人を見ていたヨザックは、人知れず苦笑を漏らしそうになる。

 悪く変わる事、落ちてゆくという事だけはとても簡単で。けれど、反対に良く変わっていく事はとても難しい。
 それでも、何かの切欠があれば人は変われる。ほんの些細なものでもいい、変わろうと思った時点で人は変わっているのだろう。

 ユーリの嬉しそうな声がいつまでも響いていた。








END

2008.3.17


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