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まるマ


「それでですねぇ、頼みますから何処かに行かないで下さいね?大きな事件になってないとは言え、本当に何をするか分からないんですよ」
「どうしたんだよ?いつもここまで言わなくない?」
「はぁ、今日は隊長が一緒じゃありませんので」
「コンラッド?コンラッドが居ないとなんで困るわけ?」

 首を傾げて、きょとんとした瞳は純粋な疑問を示していた。
 何故ヨザックがそこまで不安そうにするのか。ユーリは知らないのだから当然と言えば当然だが。
 コンラートがヨザックに対する厳しさをユーリは知らない。コンラートの冷たさとユーリへを大切にしている度合いを、ユーリは知らない。
 何かあれば、必然的に全ての矛先はヨザックに向かって来る。例え何も無かろうと、ユーリから目を離したという事が知られればコンラートにヨザックは酷い目に合わされるだろう。

「………いや、そもそもこんな状況の城下に連れて来たってだけでもう………」

 きっと、静かな微笑を――それも冷気が漂ってきそうなものを浮かべて、低い声で問うだろう。それでもその問いの答えなど期待してはいないし、言い訳など聞いてはくれない。
 想像して、襲って来た寒気にヨザックは震えた。バレたらとてもではないが、暫く生きた心地がしないだろう。
 こういう時に、コンラートが「ルッテンベルクの獅子」と呼ばれていたのだという事を思い出す。

「ヨザック?どうしたんだよ?」
「い、いえ…」
「ヨザック?」
「坊っちゃん、世の中には知らなくていい事も存在するんですよ」

 ユーリにとってコンラートは、「優しくて、頼りになって、自分を守ってくれる人」であるのならそれを壊す必要はない。ユーリに対してはそれで間違ってはいないのだから。
 ……ただ、ユーリ以外の他者――更に言うのであればユーリに恋愛感情に近いものを抱いている者――もっと厳密に言うのであれば特にヨザックに対して容赦が無いだけで。


「ヨザ」

 そう、こういった地を這うような声で、しかも笑顔を浮かべて無言の圧力を掛けて来るのだから質が悪い。

「どうして、坊っちゃんを連れてここに居るんだ?」

 そうそうこんな風に、と頷き掛けてヨザックはぎょっとした。
 腕を組み、不機嫌そうにヨザックを見ている目の前の人物。軍服こそ来てはいないがコンラートその人だった。

「たたたた、隊長ッ!?」
「コンラッド!仕事はいいの?軍服は?なんで私服?」

 真っ青な顔のヨザックと、嬉々としたユーリ。対称的である。
 コンラートもヨザックに向ける視線は冷たいものであるが、ユーリに向けるものは柔らかい。
 確かに、城下について知らされていなかったユーリに非はない。知っていて連れて来たヨザックの方が悪い。ユーリが実は知っていたのだとしても、止めないヨザックが悪い。
 コンラートは確実にヨザックに対して怒っている。ヨザックの予想通りの展開になりそうだ。
 どうしてコンラートに出くわす可能性を頭から除外していたのか、ヨザックは自分の迂濶さを恨んだ。


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あきゅろす。
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