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まるマ




「陛下の護衛、ですか?」

 グリエ・ヨザックは、言われた言葉を繰り返した。
 目の前に居るのはヨザックの直接の上司である、フォンヴォルテール卿グウェンダル。だから任務を与えられるのは別段不思議な事ではないのだが、陛下の護衛といえばコンラートだ。
 それを疑問に思っていると、悟い彼は答えをくれた。

「コンラートが城下町の警備団の方で色々指揮をしていてな。……まぁ普段ならばコンラートが行く必要もないが、現在は少々問題があるようでな」
「あー……中途半端なゴロツキ連中ですか?」
「……そうだ」

 ぽんと浮かんで来たものを口にすると、グウェンダルは渋い顔で頷いた。
 現在の城下に関してはヨザックはここに来る途中に通っただけなので、さほど詳しくはないがそれでもちらりとは聞いたし見た。
 そこまで大きな問題ではない。国家反逆などとはかけ離れている。
 それでも周囲は迷惑しているし、怪我人も出ないようなちょっとした騒ぎでしかないので、逆に警備団はどう扱って良いか扱いに困っているのだ。
 牢に入れる程の罪ではないが、放置しておけば同じ事を繰り返すだろうし。話し合いでもなんでもして、もうしないと納得してもらわなければいけない。
 それを考えると、コンラートが出向く事にはまぁ納得がいく。剣の腕ではコンラート程の者は必要ないが、そういった面でコンラートは非常に長けている。話術も巧みであるし、カリスマ性もある。誰かを力ではなく心から動かせるようなタイプだ。

「数日とは言え護衛は必要だろう。何よりもあれは直ぐに脱走するからな」
「そうですねぇ」

 ユーリを思い浮かべ、深々と溜め息を吐いたグウェンダルは、それでも何処か楽しそうだ。
 執務が滞る事にも、護衛もなしに歩く事にも、間違いなく困っているのだろう。困らない訳がない。
 だが、それらは全てユーリが元気な証拠だ。だから微笑ましいという部分もあるのだろう。
 いざと言う時には、ユーリが己の責務を放り投げる事などはしないし。王として誇れるし、仰ぎ見れる。
 そんなグウェンダルには気付かない振りをして、ヨザックはその場から立ち去った。



「やった!やっぱりヨザックかぁー!」
「ぼ、坊っちゃん……?」

 ノックの後に扉を開けて、ヨザックは固まった。
ユーリが満面の笑顔で、扉の目の前に居たのだ。何なのかと驚くのは当然だろう。そもそもこんな美しい顔を、何の構えもなしに間近で見るのは少し心臓に悪い。

「なぁなぁやっぱりおれの護衛?」
「ええ、そうですよ」
「コンラッドが居ないって聞いたからさ、誰か護衛やるのかなーと思ってたんだけど、ヨザックだったなんてラッキー!」

 楽しそうなユーリに、ヨザックは首を傾げる。何故ここまで嬉しそうにしているのかか、ヨザックには分からない。
 ユーリはコンラートにべったりと言っていいような状態だ。そのコンラートが居なければ多少は寂しく感じそうなものなのに、寧ろその逆だ。

「隊長は警備団の方の指揮があるそうで……」
「それって、ゴロツキ連中?」
「坊っちゃん、聞いていらっしゃったのですか?」

 ゴロツキ連中はやはりユーリに対して多少負の感情を抱いている。ユーリに、というよりは現在の眞魔国に、という方が近いが。
 そんな事など、周囲の者はユーリには伏せそうなものだが。


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