まるマ
8 「うぁー恥ずかしかったー」 裏路地まで来ると、陛下はこれ以上ないというくらいに盛大な溜め息を漏らした。 そして、公衆面前で何やるんだよ、つーか怪我しての治療ってあれが一般的な訳?などと真っ赤な顔でぶつぶつ呟いている。 いや、一般的な筈がないじゃないですか。想像してみて下さいよ、コンラッドがオレに同じ事をする所を。……正直想像したくもないが。 つまりは、間違いなく完全にアイツの趣味だ。しかも勿論陛下限定で。 「あ、出ちゃってた……傷付いたら大変だしな…」 オレの心の中など知る由もない陛下は、首に掛かっているペンダントを摘まむと服の下へと入れた。 先程転んだ時に服から出たのだろうが、本来服の下にあったものなのだろう。 青い色の魔石。オレはそれに見覚えがある。以前コンラッドが常に大切に持っていたものだ。コンラッドが陛下に渡したのだろう。 「その魔石、大切になさってるんですね」 「うん!綺麗だし、コンラッドがくれたやつだし!」 「良かったです。大切にしてやって下さい、アイツの宝物……アイツにとって凄く大切なものでしたから」 そんな陛下を見て、オレも安心する。 あれは元々はスザナ・ジュリアのもので、コンラッドにとっては彼女から貰ったお守りのような――とても大切にしていたものだから。 それを今度はアイツは陛下に渡した。お守りにと。そこにはとても大きな想いが詰まっているに違いない。 「コンラッドにとって?」 「ええ」 「どうして、そんなものおれに……」 戸惑う陛下に苦笑が漏れる。 貴方はコンラッドにとって途轍もなく大切な人なんですよ。誰よりも何よりも。 貴方がコンラッドを変えた。オレにはそれが堪らなく嬉しい。 一度死んだようなアイツが、また笑っている。自分の命よりも大切にしていたような魔石を貴方に託せている。 貴方の傍らで、貴方の一挙一動に幸せそうに微笑んでいる。 だから知っていて下さい。コンラッドにとって、貴方は誰よりも何よりも大切なのだと。そして、忘れないで下さい。 「大切だからでしょ、貴方が何よりも誰よりも大切だから」 「そっか…」 陛下は嬉しそうに顔を綻ばせた。花の咲いたよりな愛らしい笑顔。 ああ、本当にコンラッドが変わったのも分かるような気がする。 昔から変なものに引っかかり易い所為で心配だったが、陛下がいるのなら大丈夫だろう。 この陛下と同じ時代に生きられる事、陛下の時代をお守り出来る事、その光を浴びれる事、その笑顔を見れる事……堪らなく幸せで幸せで仕方ないと思う。 ←*#→ [戻る] |