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まるマ



「わぁ!ど、泥棒ーっ!誰か捕まえとくれっ!」

 唐突に後ろから響いた声に、振り返る。
 こちらに向かって来るがっしりとした体格の男。手には彼が持つには不自然過ぎる女物のバックを不自然な持ち方で持っており、その後ろには座り込んだ老女。
 擦りか何かなのだろう。
 捕まえる為に足を踏み出そうとした瞬間、しかしそれよりも早く響いた声があった。

「ちょっとあんた!」

 陛下の声だ。
 そして、それだけではなく自ら擦りを捕まえようとその男に向かっていく。
 コンラッドもオレも固まっている暇などなく、それぞれが動き出す。コンラッドは陛下に、オレは擦りに。
 それでも陛下と擦りが接触する方が早く、突き飛ばされた陛下は地面に転がりそうになる。コンラッドがギリギリで陛下の腕を掴み、自分の方に引き寄せた。
 それを視界に捉えながら、オレはそいつの腕を掴むと、背後に回って地面へと押さえつける。
 打ち所が悪かったのか、そいつは気を失った。まぁ死ぬような事じゃないし、オレが気にする事でもない。

「ヨザック凄いっ!恰好いいよ!」
「どーも、どーも」

 子供でも相手をするかのように容易く男を捕まえたオレを、陛下は絶賛する。きらきらと尊敬の眼差しを向けながら、それはもう楽しそうに。
 だけど、オレはその後ろのコンラッドの表記を見て、固まる事になる。明らかに嫉妬の滲む瞳で、こちらを見ていたのだ。
 それは何処か獅子を思わせるようなものだった。勿論、戦場にいた頃のそれよりはかなり軽いものではあるが。

「ああ、ぼ、坊っちゃん!オレよりも隊長の方が強いんですよ!見た事あります?オレなんか剣で勝った事なんかありませんからね!そりゃもう……ッ」
「本当?あ、あるよあるっ!コンラッド凄いよねぇ…!いつも守って貰ってるおれってラッキーだよね」
「いいえ、そんな事はありませんよ。剣しか取り柄がありませんから。こんなものが貴方を守れるのなら、幸せです」

 陛下の言葉に機嫌を直したのか、再びコンラッドの顔には笑顔が浮かんでいる。
 これで八つ当たりされる心配はない…と思う。……多分。言い切れないし不安はあるが。
 それにしても、やけに子供っぽい一面をコンラッドに見た気がする。こんなコンラッドは初めてだ。

「すみません……バックを取り返して下さってありがとうございます」

 背後から聞こえた声に、一時思案を止めて振り返る。
 そこにいた老女は先程、転んでいた人で――すっかり忘れていたが、そうだ擦りの犯人を捕まえたのだった。
 気付いた陛下は、転がっているバックを手に取ると老女に渡した。

「はい、お婆さん。もう取られないようにね!」
「ありがとう、坊や。さっき転んでたけど大丈夫かい…?」
「あ、おれは大丈夫!お婆さんこそ…」

 陛下は「大丈夫だ」というように手を左右に振った。
 だけど、その瞬間指先に何か赤いものが見えて――。


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