[通常モード] [URL送信]

まるマ


「今さぁ、話してたの!野球っていうスポーツを国技にしたいなって。ヨザックはどう思う?」
「やきゅう……?すぽおつ…?」

 陛下は嬉々とした表情で話し出した。とても楽しくて楽しくて、それが好きで堪らないといった様子だ。
 だが、反対にオレは聞き慣れない言葉に頭の中は疑問符だらけだ。陛下は異世界から来たという話だし、そちらの国の言葉だろうか。
 遠慮がちに聞き返すと、陛下は困ったような表情をした。

「……あ、そっか。こっちの世界じゃ通じないか。えっと……」
「体を動かす遊び、みたいなものだ。と言っても軍事訓練とかじゃなくて、本当に純粋な楽しむだけの」
「そう!そうなんだよ!広がればいいなぁって。皆で仲良く出来たら楽しいと思わない?」
「……へぇ」

 軍事訓練じゃなく遊びとはどういう事だろうか。そんな事をぼんやりと思いながら、オレはその顔をただ見つめていた。
 楽しそうに、期待に満ち溢れたような陛下のその表情を。

「体を動かすって言ったら軍事訓練か、仕事の為……働く為だけなんだってな?」
「ええ、他に何があるんです?」

 少しだけ躊躇った様子で、陛下は問いを口にした。問いというよりは確認に近くはあったが。
 働かなければ食ってはいけないし、食っていけなければ生きていけないだろう。この陛下は何を言っているのだろうか。
 それを口にしないのは、やはり先程の眩しい笑顔と今の少しだけ悲しそうな笑顔の所為だ。

「うん、分かってるよ。こっちの世界だけじゃなくて、向こうもだけど……その日の食べ物すらないっていう人もいるんだよね。余裕なんてなかったり、戦争の為に体を鍛えたりしなきゃいけなかったり………」

 ――凄く驚いたよ、おれには考えられない事だった。
 そう、陛下は唇だけを動かした。音として零さなかったけど確かに呟いた。
 オレも、コンラッドもそれには気付いた。

「そう考えると、無意味なんだろうけど……だけど、体動かすのが軍事訓練の為だけなん可笑しいよ。もっと楽しい事もあるのに、ただ人を殺す為だけの技術を身に付けるだけなんて」

 陛下は顔を歪ませて何かを耐えるような表情をした。唇は赤くなるまで硬く噛まれていた。
 そんな横顔を見ながら、思い出す。そういえばこの陛下は戦争反対だった。戦争を止めたいが為に王になったのだった。

「ヨザックから見たら、無意味かも知れないけど……」
「そんな事はありませんよ、ユーリ。剣で争い傷付け合うのではなく、純粋に楽しむ為だけに競い合う事が出来るのは素晴らしい事です」
「コンラッド……!」

 不安そうな、今にも泣き出しそうな陛下に、優しい声を掛けたのはコンラッドだった。
 陛下を安心させるかのように、人好きする笑みを浮かべて見つめていた。

 陛下の言葉に、オレは言葉が出なくなった。
 始めはちょっと興味深いと思っただけ――否、陛下の話を聞いたのは寧ろ興味本位でしかなかったと思う。
 だが、もし本当にそれが実現すればとても魅力的な話だと思う。
 戦争をせずに済むような、平和な世界が来るのならどれ程に幸せな事だろうか。それは途方もない夢のような話だけど。



←*#→

2/3ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!