まるマ
2 「今さぁ、話してたの!野球っていうスポーツを国技にしたいなって。ヨザックはどう思う?」 「やきゅう……?すぽおつ…?」 陛下は嬉々とした表情で話し出した。とても楽しくて楽しくて、それが好きで堪らないといった様子だ。 だが、反対にオレは聞き慣れない言葉に頭の中は疑問符だらけだ。陛下は異世界から来たという話だし、そちらの国の言葉だろうか。 遠慮がちに聞き返すと、陛下は困ったような表情をした。 「……あ、そっか。こっちの世界じゃ通じないか。えっと……」 「体を動かす遊び、みたいなものだ。と言っても軍事訓練とかじゃなくて、本当に純粋な楽しむだけの」 「そう!そうなんだよ!広がればいいなぁって。皆で仲良く出来たら楽しいと思わない?」 「……へぇ」 軍事訓練じゃなく遊びとはどういう事だろうか。そんな事をぼんやりと思いながら、オレはその顔をただ見つめていた。 楽しそうに、期待に満ち溢れたような陛下のその表情を。 「体を動かすって言ったら軍事訓練か、仕事の為……働く為だけなんだってな?」 「ええ、他に何があるんです?」 少しだけ躊躇った様子で、陛下は問いを口にした。問いというよりは確認に近くはあったが。 働かなければ食ってはいけないし、食っていけなければ生きていけないだろう。この陛下は何を言っているのだろうか。 それを口にしないのは、やはり先程の眩しい笑顔と今の少しだけ悲しそうな笑顔の所為だ。 「うん、分かってるよ。こっちの世界だけじゃなくて、向こうもだけど……その日の食べ物すらないっていう人もいるんだよね。余裕なんてなかったり、戦争の為に体を鍛えたりしなきゃいけなかったり………」 ――凄く驚いたよ、おれには考えられない事だった。 そう、陛下は唇だけを動かした。音として零さなかったけど確かに呟いた。 オレも、コンラッドもそれには気付いた。 「そう考えると、無意味なんだろうけど……だけど、体動かすのが軍事訓練の為だけなん可笑しいよ。もっと楽しい事もあるのに、ただ人を殺す為だけの技術を身に付けるだけなんて」 陛下は顔を歪ませて何かを耐えるような表情をした。唇は赤くなるまで硬く噛まれていた。 そんな横顔を見ながら、思い出す。そういえばこの陛下は戦争反対だった。戦争を止めたいが為に王になったのだった。 「ヨザックから見たら、無意味かも知れないけど……」 「そんな事はありませんよ、ユーリ。剣で争い傷付け合うのではなく、純粋に楽しむ為だけに競い合う事が出来るのは素晴らしい事です」 「コンラッド……!」 不安そうな、今にも泣き出しそうな陛下に、優しい声を掛けたのはコンラッドだった。 陛下を安心させるかのように、人好きする笑みを浮かべて見つめていた。 陛下の言葉に、オレは言葉が出なくなった。 始めはちょっと興味深いと思っただけ――否、陛下の話を聞いたのは寧ろ興味本位でしかなかったと思う。 だが、もし本当にそれが実現すればとても魅力的な話だと思う。 戦争をせずに済むような、平和な世界が来るのならどれ程に幸せな事だろうか。それは途方もない夢のような話だけど。 ←*#→ [戻る] |