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まるマ


「渋谷ー」
「なんだー」

 テレビの前を陣取っている後ろ姿に、苦笑が漏れそうになる。一生懸命に彼は知ろうと、学ぼうとしているのだ。
 僕に対しての返事が、随分と気のないものなのは、まぁ責められる事ではないだろう。それだけ夢中になって見ていて、懸命だという事だ。
 だけど、君が望むならそんなのよりも確かなものを教えてあげるよ。僕の中に残る記憶から、知識から。

「君が望むなら、今度僕が教えてあげようか?この世界の歩んで来た道を」

 どれ程の惨劇が繰り返されて来たか。どれ程の血が流されて来たか。どれ程人間が醜いものか。
 漸く締結された条約も破棄され、ただ同じような事が繰り返されて。歴史は繰り返されるとは良く言ったものだ。
 その争いや抗争の中で、沢山の人が泣き、沢山の人が苦しみ、極ほんの少数が私腹を肥やして来た。
 現在の日本の平和を得る為に、どれだけの苦難があり、それでもそれもまたどれほど脆いものなのか。

 テレビや学校の教科書だとかのそんな表面上のものだけではなくて。あるがまま、僕の魂が見たそのままの世界を。
 僕の魂が、面倒になり希望を無くしていた世界を。その汚さを。
 綺麗で真っ直ぐな君にはどんなに辛いものだろう?

(―――それでも)

 ああ、それを聞いても君はきっと望むのだろうね。
 一国の王として、眞魔国の国民として、そして「渋谷有利」として。
 平和を。皆の笑顔を。
 彼の大地に広げるものに、血ではなく花を望むのだろう。


『いつか君の望む世界を、陛下』
「村田?何て言ったんだ?」
「んー秘密」

 ドイツ語で贈った言葉は、彼には理解出来なかったらしい。いや、それが分かっているからこそ言ったんだけど。
 だけど、心から思う。いつか、君の望む世界で君と一緒に居られたらいいな、と。


(……渋谷、僕らの魔王陛下)








END

2008.1.25


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