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まるマ
【おまけ】
貴方は、ただ守られていてはくれない(ヴォルユ)


「なぁ、ヴォルフ。良い王様ってなんだろうな?」
 ユーリは、ぽつんと呟くように言った。
「何千という数の民の命とたった一人の王の命、どっちが大切なんだろうな? いや、比べちゃいけないのは分かってるけどさ?」
 もしも、だよ。ユーリはそう、念を押す。
 ヴォルフラムは、金縛りにでも合ったかのように身動ぎ一つ出来ずに、貴色と言われる黒い瞳をただ見つめた。
「王様は何があっても生きるべきだって、それも分かるんだ。だけど、何千という民がおれの命で助かるって言うんなら……」
 黒曜石のように美しい瞳は、ただ真剣な色で、真剣な眼差しで。
 心臓が、不規則に脈打つ。その先の言葉を聞いてはいけないと、本能が告げる。
 握りしめた掌が、汗ばんでいる。何か、言わなくては。聞きたくない、と声を上げなければ。
 だが、声を出そうとしても、カラカラと乾いた喉が、出させてはくれない。

「おれは、この命を懸けたいと思う」
 しん、と二人だけの部屋が静まり返った。
 まるで、世界から音という音が消え去ったかのような、ただ重苦しい静寂。
「へ、へなちょこのお前に何が出来るッ!?」
 ヴォルフラムは、感情のまま、怒りをぶつけるように怒鳴る。
 怒鳴らずには、いられなかった。
(ユーリが死んだら、だと?)
 その言葉を反芻して、顔から色が抜け落ちるのを自分でも感じる。
 噛み締めた唇は、それ以上何か紡ぐことは出来なかった。
「――ッ!」
 ただ、声にならない声をあげ、ユーリに背を向けて足早にその場を去った。






 寝室の扉を、乱暴に閉めて、ベッドに体を投げる。
(命を懸ける、だと? へなちょこのアイツに何が出来る!?)
 目の前の枕を、ただ乱暴に叩く。がむしゃらに、ただ怒りのままに、自分の掌が赤くなるほど叩き続けた。
 どれくらい、そうしていただろうか。暫くそうしていると、怒りに興奮した頭が幾ばくか落ち着いてくる。
 ヴォルフラムは、自分を落ち着かせる為に、深い溜め息を一つ吐いた。
(……いや、へなちょこだと、僕が思っていたいだけだ)
 暴れていた腕が、力なく下がる。
 へなちょこだと言うが、本当にそう思っている訳ではない。守ってやらなければいけないのだと、そう、思っていたいだけだ。ユーリが自らの命を投げ出すなど、考えたくもないのだ。
 ユーリは、成長した。強くなった。
 いや、元々強かった。だが、何を自分がすべきで何をすべきではないのか、ただ無鉄砲なだけではなく、それを理解するようになった。

(ユーリ、お前は……優しいから)
 それでも、だから、やはり自分よりも誰かを優先してしまう。そういう所は変わらない。
 それは、二番目の兄とよく似ていた。それ故に、その言葉が本当なのだと分かってしまう。
 枕を、くしゃりと強く握り締める。
 守っていたい。守っていられる場所にいて欲しい。自分でなくともいい。兄のグウェンダルでも、悔しいがコンラートでもいい。せめて、誰かの庇護下にいて欲しい。
(そう願うのは、アイツに対する侮辱になるのだろうが)
 ユーリは、大人しく守られているだけの弱い人間ではない。分かってはいる。
 だからこそ、そうして傷付かぬよう、大事に大事に籠に入れておくことなど、ユーリに対する侮辱でしかない。

 ――だが、それでも。そう、思わずにはいられなかった。
 ヴォルフラムは、広すぎる部屋で、ただ一人、掌を握り締めた。






END

2010.12.5


***
本当は、お題は5つだけで終わりなのですが。以前、このシリーズ?に対して、コメントをいただいたので、せっかくだから書いてみた。楽しんで頂けたら、幸いです。


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あきゅろす。
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