まるマ
星の見えない夜空
コンユ/ここにいない人
夜空の星に願えば、叶うのだろうか。
こんな時、彼ならどうするだろう。
草木も眠るような、夜の静かな時間。いつまでも眠れないユーリは、ただ空を見上げていた。
隣を見れば、村田やフリンは静かな吐息を漏らして眠っている。
自分一人になり、考える時間が出来てしまうと、無意味だとは分かっていても、どうしても繰り返し考えてしまう。
もし、彼が隣にいたら「考えなくていいんですよ」と優しく微笑んでくれるだろうに。
それでも、記憶に残る彼の表情はそれではない。
『――手でも、胸でも、命でも、貴方に差し上げると言ったでしょう』
そう言った、彼の姿が忘れられない。以前聞いたその時とは、違う表情で、違う状況で言った、彼が。
ユーリを守る為に片腕を無くし、それでも気丈に強い瞳で笑っていた。牙を持った、獣のような表情を浮かべていた。
彼が獅子なのだと……初めて、彼を知ったような気がする。よく知っていた筈のコンラッドが、知らない人に見えた。
「獅子は強いもんな、だから大丈夫だよな……?」
僅かに震える声で、それでも強い語調で紡いだ言葉。
それは誰に向けてのものか……それでも、恐らくそれは希望なのだろう。切実な願い。
普段は真っ直ぐで強い、誰もが見とれるような瞳が、僅かに揺らぐ。思わず噛んだ唇が、僅かに痛んだ。
ユーリは、初めて知った。大切な人を亡くすかも知れないという恐怖を。
今まで何度か、自分とて死にそうな目に遭ってはいた。魔王であるが故に、またそれとは関係なく、も。
それでも、本当に怖いと思った事はなかった。一度として、こんな恐怖を抱いた事はなかった。
――何故なら、どんな時も常にコンラッドが居たからだ。
「コンラッド……」
ユーリは、自分と同じ色の空を見上げる。
そこにある筈の星々は、あまりに闇が深すぎて見えない。
END
2009. 8.12
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