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まるマ
まだ見ぬ願いの叶う日
ムラユ/いつか知って欲しい



 いつか、本当に告げられる時が来るのだろうか。
 眞魔国の事、君が魔王なのだという事を僕が知っていて、そして四千年の記憶を持つ大賢者なのだ、と。
 君に、告げられる日は来るのだろうか。



「むーらーたぁー」

 ガラステーブルの上の教科書を、先程まで唸りながら見ていた渋谷は僕に声を掛けて来た。
 それが何を意味するのかなど明白だ。ギブアップのサイン。もう分からないから教えてくれ、と僕に助けを求めるもの。
 くりんとした瞳で見上げてくる姿は愛らしいとは思うけど、簡単に教えてばかりいては渋谷の為にはならない。僕は渋谷の為にならない事はしたくない。

「渋谷、まず自分で解いてみてからね」
「だって分かんねーんだもん。おれが数学苦手なの知ってるだろ?」

 さり気無く教科書を横にやって、早くもお喋りモードに入り出した。
 全く、渋谷は本当に集中力がないんだから。これで魔王の執務には差し障りがないのだろうか。問いたくなってくる。
 勿論、まだ僕がそれを口にする事など出来ないけど。彼は何も知らないのだから。彼は僕を「村田健」として、それ以外の何者とも疑わない。
 確かに僕は「村田健」以外の何者でもない。僕は「村田健」だと胸を張って言おう。しかし、それは正しくもあり、また全てでもない。

「お前、本当に頭いいよなー」
「渋谷だって時間を掛ければこれくらい出来るよ」

 渋谷の素直な賞賛に僕は苦笑を漏らす。
 僕の場合は全てが全て僕の努力ではないのだから、そう誉められた事ではないと思う。
 全てが僕の得た知識という訳ではない。沢山の記憶の積み重ねが僕なのだから。
 そう考えると、懸命に学ぼうとしている渋谷の方がずっと誉められるべき存在だ。

「おれもお前みたいに頭良かったら迷惑掛けずに済むんだけどなー」

 ――誰に?
 勿論そんな事は問うまでもない事だから口にはしないけど。眞魔国での側近達に、という意味だろうから。
 渋谷の言葉の端々に、見え隠れするようになった沢山の影。誰とは言わないけど、それは向こうでの人々を指しているのは明白で。
 それを耳にする度、感じる度に切なさに似たものが込み上げてくる。

 渋谷をそうして支える事がとても羨ましいと思う。僕だって本当はそうして支えたい。話を聞いたり、相談に乗ったり、一緒に悩みたい。
 ねぇ、渋谷。君が話してくれれば僕はそう出来るのに。君が話してくれたら、僕の秘密も話す事が出来るのに。

「村田、何考え込んでんだよー?」
「ん?君にどうやって教えようかな、って」

 ねぇ、渋谷。いつになったら僕は君に話せるのだろう?
 重い記憶を、背負ったものを。
 勿論、こうして一緒に居られるだけでとても幸せなんだけど。








END

2008.2.4


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