まるマ
1 何故、人は争うのか。憎み合い、傷付け合い、殺し合うのか。 生まれる悲しみに、どれだけの人間が苦しむのか。どれだけの幸福が、掻き消されていくのか。 ――それでも尚、何故、人は信じるのか。 たった一単語に、不意に教科書をめくるユーリの手が止まる。 テストも近く、ぼうっとしている暇などないのだが、頭はそれ以上動いてはくれない。 「ユーリ?」 表情を失くしたように、ただそのページを見ていたユーリを不審に思ったのだろう、コンラッドが声を掛けてきた。 そのページを覗き込むが、日本語の分からない彼には、ユーリが何故そうなっているか分かる筈もなく。 どうしたんですか、と心配そうに問う声に、ユーリは躊躇い、何処か心を痛めた様子で口を開く。 「戦争の原因に、宗教も、あるって……」 指差した先に書かれているのは、続いている争い。紛争。消えていく、消されていく命。 愛を説く宗教が、自ら信じる神の為に人を傷つけ、殺し続ける様。ぶつかり続ける、人間達の憎悪。 「そう、ですね」 「どうして、だよ……!」 悲しげに肯定するコンラッドに、ユーリは声を荒げる。 掲げた大義があろうとも、戦争は戦争だ。何故そんな事になるのか、ユーリには理解が出来ない。 神を信じ、敬っておきながら、その神から与えられた命を無駄にする。愛を説きながら、譲ることや認める事をせずに争い続ける。ほんの少し、双方が譲れば問題は解決するかのように見えるのに――。 衝動的に握り締めた拳、その爪が掌に食い込んだ。 ――痛い。堪らなく、痛い。 痛いのは、その手か? ……違う、もっと奥深く、その心だ。 「……どうして宗教とかでそんな風になるか分からないっ! 譲れば、平和的な解決も可能なのに……」 何故、人は争うのか。何故、他者を認める事よりも否定する方にいくのか。 人は、一人で生きている訳ではない。たくさんの人と関わり交わり、助けられたり支えられながら生きている。だからこそ、他者を大切にしなければいけないのだと思う。傷つけてはいけないのだと思う。 同じ人間が、否定しあうなんて悲しいじゃないか。共に生きれる道があるというのに、何故? ――握りしめた拳が、力なく下ろされる。 だらんと下がったその腕は、何処か絶望したかのようにも見える。それは、何に対する感情か。 #→ [戻る] |