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まるマ




 何故、人は争うのか。憎み合い、傷付け合い、殺し合うのか。
 生まれる悲しみに、どれだけの人間が苦しむのか。どれだけの幸福が、掻き消されていくのか。

 ――それでも尚、何故、人は信じるのか。



 たった一単語に、不意に教科書をめくるユーリの手が止まる。
 テストも近く、ぼうっとしている暇などないのだが、頭はそれ以上動いてはくれない。

「ユーリ?」

 表情を失くしたように、ただそのページを見ていたユーリを不審に思ったのだろう、コンラッドが声を掛けてきた。
 そのページを覗き込むが、日本語の分からない彼には、ユーリが何故そうなっているか分かる筈もなく。
 どうしたんですか、と心配そうに問う声に、ユーリは躊躇い、何処か心を痛めた様子で口を開く。

「戦争の原因に、宗教も、あるって……」

 指差した先に書かれているのは、続いている争い。紛争。消えていく、消されていく命。
 愛を説く宗教が、自ら信じる神の為に人を傷つけ、殺し続ける様。ぶつかり続ける、人間達の憎悪。

「そう、ですね」
「どうして、だよ……!」

 悲しげに肯定するコンラッドに、ユーリは声を荒げる。
 掲げた大義があろうとも、戦争は戦争だ。何故そんな事になるのか、ユーリには理解が出来ない。
 神を信じ、敬っておきながら、その神から与えられた命を無駄にする。愛を説きながら、譲ることや認める事をせずに争い続ける。ほんの少し、双方が譲れば問題は解決するかのように見えるのに――。

 衝動的に握り締めた拳、その爪が掌に食い込んだ。
 ――痛い。堪らなく、痛い。
 痛いのは、その手か? ……違う、もっと奥深く、その心だ。


「……どうして宗教とかでそんな風になるか分からないっ! 譲れば、平和的な解決も可能なのに……」

 何故、人は争うのか。何故、他者を認める事よりも否定する方にいくのか。
 人は、一人で生きている訳ではない。たくさんの人と関わり交わり、助けられたり支えられながら生きている。だからこそ、他者を大切にしなければいけないのだと思う。傷つけてはいけないのだと思う。
 同じ人間が、否定しあうなんて悲しいじゃないか。共に生きれる道があるというのに、何故?

 ――握りしめた拳が、力なく下ろされる。
 だらんと下がったその腕は、何処か絶望したかのようにも見える。それは、何に対する感情か。




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あきゅろす。
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