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B/M小説




 反逆者に墓などない。ただ骨を塚のような場所に乱暴に詰め込まれるだけ。
 その扱いにギルヴァイスが疑問を抱いた事はなかった。己の主であるレイジに刃を向けたのだ、当然の報いだと思っていた。
 そもそも、死者は弔いなど必要としていない。死は死でありそれ以外の何者でもない。死した者は何も思えないし感じる事もない。
 全ては生者の為でしかない。



「ギルヴァイス」
「はい…?」

 聞き慣れた声に視線を上げれば、ギルヴァイスの前にはレイジが立っていた。ギルヴァイスが椅子に座っている為に必然的に見上げる形になる。
 身長差から普段あまりレイジを見上げるという事がない所為か、何処がとは言えないがいつもとは違うように感じられた。
 それを不思議に思って尋ねようとしたが、唐突に腕を引かれて執務室から連れ出される。僅かばかりの勇気を振り絞って疑問を口にしても答えては貰えない。

(………レイジ――?)

 どんどんどんどん城から離れ、辿り着いたのはファルク湖。よく息抜きに来る場所だ。
 訳の分からぬ場所に連れて来られ帰り道が分からなくなってしまう、という心配はどうやらしなくてもいいようだ。少しだけ肩の力が抜ける。
 それでもレイジはギルヴァイスに背を向けた儘、その腕を引いて更に奥へ奥へと進む。


「……着いたな」

 漸く足を止めたレイジとその言葉に、目的地に着いたのだとギルヴァイスは知る。慣れ親しんだ場所の、しかし普段来る事のない深部はどんな場所なのかと周囲に視線を向ける。
 自分の周りを見渡すように、一周首を回して、辺りにあるものを半分も見ない内に思わず息も止まる。こんなに綺麗な場所がこの世界にあったのか、と。
 鬱蒼と茂る木々に花は無い。それでも深緑の葉は美しく天へと伸びていた。小鳥は羽を休める者もいれば、木から木へと飛んでゆく者もいる。小さなさえずりはまるで歌のように聞こえ、休ませてくれる木へお礼をしているようだ。
 木の葉を通して差し込んで来る光は微妙な色合いを持ち、辺り一帯を柔らかく包む。そっと体へ染み込み、抱えている辛さを和らげてくれるような気がする。
 この場所は温かさで満ち溢れていた。優しさで満ち溢れていた。まるで母親の母胎にいるかのように心地良く安心出来る。
 特別でこの上なく美しい場所、見る人全てがそう賞賛するだろう。この世にある言葉全てを使ったとしても言い表す事は出来ない。





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あきゅろす。
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