B/M小説
01.存在証明 ここにいるのだと主張するそれはまるで自分のようで。だから見る度に酷く哀しくなったんだ。 主の記憶から綺麗さっぱり消えてしまったオレら。オレとこの隠れ家は似てるんだよな。 ずっと確かに此処に在り続けた。使用される事もないだろうっ分かっていながら、それでもただ一度でも見て貰える事を夢見て。 なんて滑稽だろうか。常にその傍らに在りながら視界に入れて貰った事など無かった。 辛くて哀しくて寂しくて、ただひたすら全ての感情から目を背けていた。狂いそうなそれらに飲み込まれてしまいそうになるから。 だから、何も要らない振りをしていた。望みはその傍らにいる事だけだと己に言い聞かせて。 どんなに主が悲鳴を上げていても、支える事など出来なかった。それもまた辛く、だけど知らぬ振りをして。 「ギルーギルー!……ああ、ここに居たのか!」 「レイジ?」 隠れ家にある庭のほんの片隅、そこに居たオレを見つけたレイジは足早に向かって来た。 座っているオレの前に立つと、拗ねたようにオレを見下ろしながら指を指す。 「全く!お前じゃなきゃ出来ない仕事もあるんだぞ?」 「……それはそれは光栄の極みです、我が主」 「ふざけるなよ、そう思ってるなら戻って来てくれ」 小さく笑いを零しながら、オレはレイジの手の甲に口付けを落とす。ありったけの忠誠と親愛を込めて、けれどそれはおくびにも出さずに。 レイジは困ったように視線を逸らす。いい加減、オレの扱いに慣れて来たらしい。小さく頬を叩かれた。 仕事をサボるなんていつもの事だし、ふざけたような言動もそうだ。しかし記憶を失ったレイジがそれに馴染んで来たのは最近の事。 「探す方も大変なんだぞ?」 「いつも見つけるじゃねぇか?」 「それは…まぁギルの行きそうな所なんて分かるし……」 レイジはオレがサボる度に探しに来て連れ戻す。それが嬉しくて余計にサボるようになったというのは秘密だ。ヴィディア辺りは気付いているかも知れないが。 だって、主自ら臣下迎えに来てくれるなんて幸せ過ぎるだろ。お前じゃなきゃ出来ない、と言って貰える事がただただ心地良い。 「そーかそーか、んじゃまぁそろそろ戻るとしますかねー」 立ち上がってその隣に並ぶ。触れるか触れないかの距離でレイジを感じながら、歩き出した。 レイジが許してくれる限り、変わらずにオレはその隣に在り続けるだろう。きっと永遠に。 レイジの為に存在して、レイジの為に生きる。それがただ一つオレが存在を証明出来る方法だから。 END 2008.4.19 (自分が大切にされていると知る度に夢のような気分になるんだ) ←→ [戻る] |