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B/M小説




 朝方早く――まだ日が地平線から漸く顔を覗かせた頃、レイジはベッドから静かに起き上がった。それに続くようにギルヴァイスも起き上がる。

「………殺気、だな」
「ああ」

 無粋な殺気に睡眠を邪魔されて、低く唸るようにレイジは呟いた。
 それは人間のものなのだろう。先日戦闘になりながらも生かしてやった人間達が、懲りずに悪魔を殺そうとこの村へと来たのかも知れない。
 だから、人間を殺さない事など無意味だと言うのだ。いつまでもこれが繰り返されるだけで切りがない。


「ったくアンタらも懲りないよなー」

 他の兵士を引き連れ、外へと出て、村民達を家内へと避難させて。対峙するのはレイジとギルヴァイスを含む悪魔の兵士と人間の兵士。
 やはりその人間達は先日逃がした者達だった。熱きり立ち、その各々の手には武器を携えており、既に戦闘体勢に入っている。

「煩い!この汚らわしい悪魔めッ!神の意思に背くお前達を根絶やしにするという、我々は大義を負っているのだ!」
「……はは、それはまた高尚な」
「ふざけるな!悪は滅ぶがいい!同じ空気を吸っていると思うだけで吐き気がする!悪魔など生きる価値すらない!」

 くどどくどと重ねられる言葉。欠片の説得力もないというのに、本人達はそれを疑いのない真理だと思っているらしい。全く呆れて言葉が出て来ない。
 天使達に悪魔に関してどう教えられているのかは分からないが、愚かなのは寧ろそんな人間達の方ではないだろうか。


「……愚かな演説はそれまででいいか」

 あまりに長く見苦しい演説を打ち切ったのは、レイジの声だった。凛とよく通るそれに思わず人間は言葉を止めた。
 前にいる人間達へ視線を向けて、レイジは一歩踏み出す。その一瞬にして場を包む空気が変わった。
 長々と喋っていた人間はもう一言すら漏らせない。その場を、空気を、全てをレイジは支配しているようだった。
 絶対的な支配者。絶対的な存在。言い換える言葉は幾らでもあるだろう。とにかく、戦闘時においてのレイジは強過ぎるくらいの存在感を放つ。

「お前達人間の『常識』になど付き合い切れない。お前達の腐った価値観など、我々に押しつけるな」

 続け、と命令して、レイジは真っ先に人間へ走り、と刃を向けた。


 戦闘を終えて、人間達は縄で縛られていた。魔王城へと運び、牢に放り込まれる予定だ。
 全ての人間が縛られ、その場の空気がピリピリしたものから落ち着く。それを分かってか、家からは村民達が出て来始めた。
 真っ先に来たのは、あの少年だった。

「レイジさま、ギルヴァイスさま……ッ!」

 幼い笑顔でこちらへ駆け寄って来るそれを、ギルヴァイスは温かい気持ちで見ていた。隣を見れば、レイジも先程まであった殺気を感じさせない。
 幼い少年を怯えさせない為か、それともその無邪気さに引き摺られてか。どちらかは分からないが、子供とはかくも偉大なものである。





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あきゅろす。
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