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B/M小説


「お夕食をお持ち致しました」
「ありがとう」
「あの…ど、どうぞ…っ」

 食事を運んで来たのは、少女と言うにも女性と言うにも語弊を感じるくらいの年若い女と、まだ幼い少年だった。
 女は緊張しながらも落ち着いた様子を見せていたが、少年の方は初めて間近で見るレイジ達にどう見ても怯えていて。
 可哀想なくらい青い少年の顔に、気付けばギルヴァイスは、安心させてやろうとその頭を撫でていた。

「ありがとな、坊主ー。誰が作ったんだ?」
「あの、僕のお姉ち…姉、で、す」
「旨そうだな」
「は、はい!お口、に合う、かは、分かり、ません…が僕は、姉の料理は好き、ですっ!」
「そーか、そーか」

 ギルヴァイスの軽口に少しだけ力が抜けて来たのか、吊られて少年は笑顔を見せた。子供特有の無邪気なそれをギルヴァイスは素直に可愛いと思う。
 レイジにもこういう時があったな、と遠い日々が思い起される。今や面影もないが、それでも確かにあったとギルヴァイスは知っている。
 いつまでも見ていたいような気がして、持って来られた食事に手を付ける事もなく、ただそれをギルヴァイスは見ていた。

「………ギルヴァイス」
「ん?」

 しかし、唐突に響いた声に隣を見る。レイジが神妙な顔でこちらを見ていた。
 普段ならば我関せず、といった様子で早々と食事を初めているだろうに。珍しい事もある。


「子供…好きなのか?」
「んーそうだな、好きだ。可愛いぞ?お前も…」

 言い掛けて、それよりも早く動いたレイジに、驚きから言葉が詰まる。
 珍しく目元を和らげ、レイジはその少年の頭に手を乗せたのだ。
 撫でる、まではいかない。それでも優しいそれはそのような事を示していて。

「悪くない、な」

 そのあまりに予想外な様子に、ギルヴァイスは息の止まるような思いがした。
 兵士は誰も想像しないだろう。レイジがこういった表情を見せるなどと。血や戦いにではなく、幼い子供に笑顔を向けるなど。

 それでもレイジの様子にギルヴァイスは嬉しくなった。
 レイジは冷たいだけの人ではないのだから。ただ敵を滅する為に剣を振るう無機質な人形ではないのだ。
 優しさがあって、苦しみがあって、悩んだり葛藤したりして。普通の人と同じように様々な感情を抱えていて。
 それでも、背負った立場故に、辛いとは泣けないし、感情を表に出す事は出来ない。だから常に気を張って、一人で全てを抱え込もうとする。
 そんなレイジの様子に、いつか壊れてしまうのではないかと時折不安になる時がある。だからたまにはこういう瞬間があって欲しいと思う。せめて自分に対してだけでも。


「お、お姉ちゃ……!れ、レイジ様に…っ!」
「良かったわね、ちゃんとお礼をいいなさい」

 姉弟なのだろう。女に――姉に駆け寄った弟は嬉しそうに笑い、その姉も和かな微笑を浮かべていた。
 ありきたりな姉弟の光景。優しく、心温まるようなやり取り。
 レイジはそれを眩しそうに見つめていた。







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あきゅろす。
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