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B/M小説


「仕方のない事、です」

 そっと手を伸ばして、ギルヴァイスはレイジを抱き締めた。震えているのはどちらの体か、あまりにも距離が近すぎて判別出来なかった。
 ギルヴァイスがレイジに触れるのはどれくらいぶりだろうか。呼び方と口調を変えて距離を保ってから初めてかも知れない。
 一度だけレイジが戯れでギルヴァイスに口付けた事はあったが、あれは本当に戯れでしかなかったと思う。急に態度を変えて心を隠したギルヴァイスが、珍しく反応するのを面白がっていただけだ。

「矢に薬が塗られていたという事です。ならば私の責任です、気付けなかった私が悪いのです」
「……離れろ」
「はい」

 レイジの短い命令に、ギルヴァイスは頷き体を離す。名残惜しいがギルヴァイスはあくまでも臣下でありレイジは主である。こんな事は許されない。
 そっとレイジを見やればもう動揺など微塵も無かった。ギルヴァイスを支配し、動かす普段と同じ瞳。
 その強く強烈な光に、どれ程魅せられ縛られているか、ギルヴァイス本人ですら分からない。

「どうして剣を放り投げた?」
「レイジ様が私を殺そうとしたからです。私は貴方に従うと誓いましたので」

 その言葉に、レイジの瞳の色が強くなる。怒らせたかも知れない、とギルヴァイスは思う。
 しかし、レイジが望む事ならば何でも叶えたかったのだ。それが例え正気を失っていたとしても「レイジ」には変わりないのだから。

「……ならば言う。死ぬ事は許さない。例え俺が命令しても、だ」
「レイジ様が『死ね』と命令しても、ですか?」
「ああ」

 その命令にギルヴァイスは困惑する。矛盾したそれにどうして良いか分からなかった。
 レイジの命令は絶対だ。それなのにそんな矛盾した二つの命令を出されたら、どうして良いか分からない。

「矛盾、しています」
「知っている」
「どうすればいいのですか?」

 レイジは答えない。それでもギルヴァイスはもう問わなかった。
 ……否、問う事が出来なかった。答えは自分で考えろ、とレイジの目が雄弁に語っていたから。
 これ程レイジの言っている事が分からない事はなかった。思考が違い過ぎるのだろうと再認識する。
 それでも何故だろうか、久しぶりにその距離が近くに感じられた。

 平行線は交わらない。それでも紙に描かれた線と違い、人は日々変わり続ける。
 いつまでも絶対に真っ直ぐという事はないのだ。








END

2008.4.14




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あきゅろす。
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