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B/M小説
09.帰り道を覚えてますか



 遠征に出掛けた兵士達が帰って来なかった。指揮官を勤めていたのはギルヴァイス、ギルヴァイスも帰って来なかった。
 何があったのか、生きているのか死んでいるのか。加勢が必要であれば加勢する、その為にレイジはここへと来た。
 危険だと言う部下を、大人数で行く方が危険だと振り払って、こうして強引に来たのにはやはり何か予感のようなものがあったのかも知れない。


「………ギルヴァイス」

 呼び掛けた声に、血溜まりの中に身を転がしていたギルヴァイスは僅かに反応する。這いずってでも前へ進もうとしていたのだろう、血の跡が真っ直ぐと残っていた。
 その場の光景は酷いなどというのものではなかった。何があったのかは分からないが、少なくとも不測の事態が起こり任務に失敗したのだろう。辛うじて生きているのはギルヴァイスだけだった。

「……レイ、ジ………レイジ………っ」

 譫言のように繰り返すギルヴァイスには、その姿は見えていないのだろう。ここにいる事すら気付いていない。
 だから魔王城へ帰ろうと、もう動かないだろう体を何とか動かそうともがいていた。

「ギルヴァイス、生きたいか?」

 そんな様子にもレイジは眉一つ動かす事はなかった。ただ普段と変わらず冷徹な瞳で、地面に横たわっているギルヴァイスを見下ろすだけ。
 意識ははっきりしていないが、問いは聞こえたのかギルヴァイスは悔しそうに表情を歪ませた。
 地に放り出されていた手が地面を掻く。

「……レイジ……の背中を守るのは……俺、だけだ……レイジが必要ないって、言う、まで…は……お、れ……は……」

 言葉を途中に、辛うじてギリギリあった意識さえも手放してしまったようだ。
 流し過ぎた血に、真っ青な顔をしていた。ギルヴァイスは本当にギリギリの場所にいた。虫の鳴くような息というのはこの事を言うのだろう。
 それでも、何とか城に帰ろうと必死になって、もがいて。


「………ヒール」

 呟くように唱えて回復魔法を掛けてやる。自分が出来る限り幾度も掛けてやり、致命的な傷とある程度の傷を治す。
 レイジが地面からその体を抱き起こすと、ギルヴァイスは僅かに身じろいだ。こんな状態でも本能的にレイジを意識するのだろう。

「……本当に馬鹿だな、お前は。どうやって帰るつもりだったんだ」

 答えがある筈がないと分かっていた。聞こえている筈がないと分かっていた。それでもレイジは言葉を紡いだ。
 馬鹿だ、と言わずにはいられなかった。そのあまりにボロボロな様子に言葉が出て来なかった。
 それでも、帰り道だけは示してやりたくて。


(……帰って来い)

 気を失ったギルヴァイスを見るレイジの瞳は何処か優しいものだった。








END

2007.10.17

+++++
「流れたものは零れたものは」のレイジSide…というか続きかな?
分からなくなったら思い出せばいいだけ。





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