B/M小説
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「レイジ、用があるんだがちょっといいか?」
「………ああ、ギルヴァイスか」
こちらに気付いたレイジに、手招きをして、来るように促す。
ここで用件を言うだなんて無粋な真似はしない。そうすれば、レイジの努力は無駄になるだなろうから。
この場所を綺麗なものや美しいもので整えたのはレイジだ。そこに現実を持ち込むなんて、それこそその苦労を水の泡にする事でしかない。
話に予想は付いているのだろう、レイジはジーナローズに一言詫びるとこちらへ来た。
「息を潜めていた人間達が動き出しそうだ」
扉の外へと出て、ジーナローズに聞こえない場所だという事を確認すると、ギルヴァイスはゆっくりと口を開いた。
あちこちに隠れている人間達は、鼠のように上手く隠れているだけあって、なかなかその多くは見つけるまではいかない。
村を襲い、暴れ出すとなるとそこそこの数が出てくるだろう。それを捕まえようという計画なのだが…。
「そうか」
冷静に答えるレイジからは想像も付かないだろうが、この計画には最大の欠点があった。
襲われるであろう村の住人が、少なくとも数人は犠牲になる可能性が高い事、村の畑や作物が荒らされるだろう事。
そして、ジーナローズの願い通り人間を殺さずに生け捕りにするには、兵士もまた数多く命を落とし兼ねない事。
「この事ジーナローズ様には……」
「言う筈がないだろう」
「そりゃまぁ分かってたけどな」
ギルヴァイスはなるべく軽く見えるよう、呆れたように苦笑を漏らした。
本当は、ジーナローズに対する激しい怒りが水面下にあったのだが。
見ないように、触れないように。そう、ジーナローズは美しくものへと意識を向けて、現実を見ないようにしていた。
現実の死にゆく兵士を、人間との抗争を、荒廃してゆく大地を。知りながら見ないようにと目を背けていた。
その状況を作り出すのに、一枚噛んでいるのはレイジであるのだが。
レイジもジーナローズが心を痛めるのを酷く嫌がった。彼女がそれを見ないでいる為に、沢山の美しいものを用意した。
庭園も、花も、楽器も、絵本も……全てジーナローズの為に取り寄せたものだ。
美しく整えられた、箱庭のような場所。現実からあまりに掛け離れていた。
現実は多くの者が命を落とし、死に恐怖しているというのに。
虚構でしかない。一つ何かを崩せば、音を立てて粉々になるだろう。
なんて脆く、儚い『幸せ』だろうか。嘘で塗り固められた『美しさ』だろうか。
吐き気がする。それが仮にも王のする事だろうか。
全てをレイジに任せ、自分はのうのうとしているだなんて。
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