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B/M小説



 糸の張りつめたような沈黙を破ったのは、戸を叩く音だった。
 来客を告げるそれに、ギルヴァイスに一言すまないと断ると、男は入口へと向かう。
 それを視界の端に捉えながら、ギルヴァイスは窓へと視線を向けた。
 僅かなカーテンの隙間から差し込む光に、もう朝なのかとぼんやりと思う。随分と話していたらしい。

「朝早くにすまない。こちらに誰か来なかったか?」

 小さな音と共に戸が開かれ、客の声がした。凛と空気を揺らす、よく知った声。
 それに思わず声を上げる。

「……レイジっ!?」
「ギルヴァイス!?いるのか…っ!?」

 普段なかなか聞けない、慌てているような声と共に入って来る。
 その姿を見間違える筈も、その声を聞き間違える筈はない。しかし、ならば何故レイジがこのような場所にいるのだろう。
 僅かに息を飲む声が聞こえて、それすらもただ懐かしいと思った。最後に聞いたのはほんの数時間前だというのに、こんなに懐かしく思えてしまうのは色々なものが頭を駆け巡った所為だろうか。


「この………っ馬鹿者がッ!!」
「ぐっ!?」

 しかし、感慨に耽っていると、レイジは眉を吊り上げ眉間に皺を寄せて凄い勢いで近寄って来た。
 そして、加減の知らないような力で殴られた。かなり勢いを付けて出せる限りの力を込められたらしく、体が飛びそうになる。
 かなり痛い。全く予想していなかった所為もあり、その痛さはかなりのものである。
 表情を伺う為にゆっくりと見上げて見ると、予想に反して、ギルヴァイス以上にレイジが痛そうな顔をしていた。
 僅かに、よく見なければ分からない程度に揺れている瞳。そこには、憤怒、悲哀、後悔、自責……様々な感情が伺える。

「レイ…ジ……?」
「どれだけ、心配したと思っているんだ……」
「しん、ぱい…?」
「当然だろうが。夜中に突然居なくなって。今や何処も危険だというのに」
「あれは…見回りも兼ねて……」
「直ぐに戻って来るかと思えば、一時間経っても二時間経っても帰って来ない」
「いや…その……」
「終いには何だ、足を怪我してるだと?ふざけるな」

 不機嫌そうにぴしゃりと言い放たれ、言葉を返せなくなる。残念ながら何処にも弁明の余地はない。全てはギルヴァイスの不注意さ故だ。
 始めからそうだった。死んでゆく仲間や敵の事を考えなければ、気分転換がてら見回りになど行かなかった。戦闘に集中してさえいれば、崖から落ちるといった失態など冒さなかった。

「悪かった……わざわざお前に探させちまうなんて。主に探させる臣下なんてそうそういねぇよな」
「そういう事を言ってるんじゃない。だからお前は馬鹿だと言うんだ」

 こちらが胸の痛みを感じるくらいに辛そうな表情をして、椅子に座るギルヴァイスの前にレイジは膝を折った。
 突然の事にギルヴァイスが慌てるも、黙れ、と黙殺される。その手がギルヴァイスの左足に触れ、温かな光に包まれた。
 それと同時に足の痛みが和らぐ。ヒールを掛けたらしい。





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