B/M小説
6 「なぁ坊主はどうして剣を握るんじゃ?」 「………守りたい人が、いる、から」 「もしそいつが死んだらどうすんだ?」 「え?そんなの有り得な――」 「それこそ……『絶対』なんて有り得ねぇ事だ。もしそいつが死ねば、わしにはお前さんは死を選ぶように見える」 男の言葉に、ギルヴァイスは目を見張った。 レイジを死なせたりしない。その為にギルヴァイスは隣に居る。剣を振り続け、守っている。いざとなればその身を呈してでも庇い守る。 ギルヴァイスがレイジより後に死ぬ事はないだろう。それでもギリギリまで生きようと思っている。 だが、男が言うように、確かにそこにはレイジが死んでしまってからのギルヴァイスには存在意義はない。 生きる理由がない。生きたいという願いが、想いが、生に対する執着があるのかすら疑わしい。 (……ああ、) 唐突に堪らない空虚感を感じた。今まで見えていなかったものを突き付けられたような気がした。 少なくともレイジがそこにいる限りは生きたいと思っていた。生きてその傍らに在りたいと願っていた。 レイジの為に生きて、レイジの為に死にたい。全てはレイジの為にと思っていた。 だけど、どうだろう。死んでしまえばこれ以上誰かが死ぬのを見ずに済むという気持ちも少なからずあるのではないだろうか。 レイジがいなければ、生きる価値さえないどころか躊躇なく死を選ぶのではないだろうか。 「……坊主は迷っとるんじゃろう?迷っとるからそういう顔をしとるんじゃろう?」 「そういう、って…」 「初めから――会った時からじゃよ。出来れば死んで楽になりたい、というような顔をしとった」 「……」 「坊主の中にだって理想がある。だが、現実は違う。守りたいものの為には、犠牲にしなければいけないものもある」 レイジが望む儘に在ればいいと思っていた。ただレイジの進む方向へと進むつもりだった。 その為にならばレイジ以外の誰を傷付けても構わないと思った。多くの屍を越えてでも進む、それだけの覚悟があった。 ―――だけど、辛い。 そうだ、辛いのだ。男と話している内にそうギルヴァイスは理解してしまった。 元々あった理由の分からぬ痛みが、確かなものへと変わってしまった。 『何故ですか?』 レイジを守りたい。レイジの望む儘に生きたい。 だけど、これ以上見ていたくない。人が死ぬのを、仲間が死ぬのを、そして己が殺すのを。 『どうして見殺しにするんですか?』 『ギルヴァイス様がこちらに付いて下されば、レイジ様やジーナローズ様だって……!』 『あの方々を退位させる事が悪魔には必要なんですよ?』 幾度となく言われた言葉。幾度となく反乱軍へと来て平和へと導いてくれと言われた。 だけど、それではレイジを裏切る事になる。レイジを追い込む事になる。そんな事をするくらいならば己が死んだ方がマシだ。 自分は間違っているかも知れない。それでもそれがギルヴァイスの中では確かなものだから。 どれ程の血を流す事になろうともレイジを最優先するだろう。 「難儀なものじゃな、一方を求めればもう一方は離れてく」 ぽつりと零された男の言葉。短いながらも何処か重いそれは、やけに室内には響いた。 (ああ、本当に……) 返すべき言葉をギルヴァイスは持ってはいなかった。自分の中にある想いすら纏まってはいない。絡まり合う糸のようにそれぞれが混ざり合う。 それ故にただ沈黙だけが流れていった。 ←→ [戻る] |