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B/M小説


「人間と天使とがこの魔界に入り込んでいる今の状況、数え切れない人間との争いはまさに戦争と呼ぶに相応しい。それは本当に最近の事じゃ。
……だがな、昔も稀に人間や天使が発見される事はあったんじゃよ」
「話には、聞いてる」
「城で働ける、というのは悪魔にとってこの上なく名誉な事じゃ。ジーナローズ様のような悪魔の上に立つ方に仕えられるなどな。坊主もそうじゃろう?誇りを持っているじゃろう?」

 苦笑混じりに問われて言葉に詰まり、やはり微笑で曖昧に誤魔化すしかなかった。
 ギルヴァイスがそう思っているのはレイジだけなのだから。それも「ジェネラル」だとか「王の弟」という理由ではなく、「レイジ」という存在故になのだから。
 正直な所、魔王であるジーナローズなどどうでも良かった。「レイジ」が大切にしているから同じように大切にするだけだ。

「わしも初めは嬉しかった。ずっとこの仕事を続けて行きたいと思っていた。城を、ジーナローズ様を守りたい、とな。
……だがな、どれくらい経った頃か、人間の子供が魔界に迷い込んで来おった」

 男の声が変わる。僅かに沈んだ声。
 それで察する事が出来てしまった。その子供がどうなかったか。そもそも人間がこの魔界でどんな扱いを受けるかなど、決まり切っている。

「昔から大部分の悪魔は人間や天使に対して良い感情は抱いてはおらんかったからな、その子は無惨に殺された。
敵側の者だから何があるか分からない、用心に越した事はない、と尤もらしい理由を付けて。恐怖に泣き叫ぶ、幼い子供をじゃ。酷い光景じゃったよ」
「……」
「単に憂さ晴らしや人間への恨みというのもあったんじゃろうな。罠だとか何か隠し持ってるだとかそんな事はどうでも良かったんじゃろう。ただ、なぶり殺す事を正当化する理由が欲しかっただけじゃ」

 やはり、と思えどその事実に胸は痛む。
 幼い子供が泣き喚きながら剣で貫かれる様子など、見るに耐えないだろうに。それが憂さ晴らしになるだなんて悪趣味過ぎる。

「それ、ジーナローズ様が…」
「あの方は知らんじゃろう。あの方が人間…ましてや無抵抗の子供にそんな事を許す筈がねぇ。わしの上官の命令じゃよ。考えるまでもなく独断だったんじゃろうな」

 勝手に己の欲のみで行動をする者はいつの時代にもいる。そしてそういう愚かな者程、上に立ちたがり、権力を振るいたがる。
 ギルヴァイスには人間に対して良い感情はなかったが、しかしそんな男の為に子供が無惨に殺されたなど吐き気がする。
 子供は幾度助けを乞うただろうか。どれ程怯え、涙を流しただろうか。罵られながらどれ程の苦痛にその小さな体で耐えただろう?

「それ以来、剣を持つ事が嫌になった。剣を持つ理由が分からなくなってしまったんじゃ」

 綺麗だと思った。遠い昔の事にも関わらず未だに胸を痛ませて語る男が、ギルヴァイスにはとても眩しく見えた。
 無骨で些か見苦しい容姿をしていた男だったが、その心根は外見に反してあまりに優しい。優し過ぎる。
 ギルヴァイスはどれだけ自分が人の血で汚れているかを思い知る。どれだけの血を平気で浴びて来て、そしてそれに徐々に何か考える事も放棄し始めた自分を。






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