第三話
「んじゃ、明日も今日と同じ時間な」
と、言われて数時間でどっと疲れた私はどう帰ったのかもあんまり覚えていなかったりする。
どこら辺から意識がしっかりしたかと言えば、家に着いて、寛ぐフレンが居たってところからだ。
「おかえり、どうだったんだい?」
「何でいるの」
「おばさんが玄関を開けてくれたからだよ」
いや、私が言いたかったのそういう事じゃない。ふざけてるのかこの従兄弟。
「あら、なまえ。バイトどうだった?」
「お母さんまで…」
おかえりの言葉も無しに開口一番その事なんだ。
それにバイトを始めたことはお母さんに伝えてなかった筈なんだけど。ま、だいたいは見当がつく。
チラッとフレンを見ればにっこり。
「バイトは疲れた。以上」
「えーん?それだけなの?」
「他にもっとあるだろう?」
だめだ。安らぐ場である家でも疲れることだらけらしい。
そもそもどう言えば…、あ。
「ねぇフレン。今気に入ってる参考書とかあるの?」
「君も興味があるのかい?今はこの“正義なのか法律”が一番のお気に入りで、」
「ふーん」
その分厚い本を取り上げて真っ二つに裂いてやった。
その時のフレンの顔を写真にとっておきたかったな。お母さんは微笑みながら他人のようにスルーして自室に行ってしまった。
「君は、何て事をっ…」
「そうそうバイトの事だったわね。…フレン行ったことないんだっけ?」
「?、ああ」
「内容も知らない?」
「レンタルショップ」
「どんな」
「DVD」
「何の」
「年齢制限されたアダルトなもの」
「・・・・・」
「・・・・・」
「知ってたんかい!!!」
てっきり知らないものかと思ってたよ。いや、知ってるんじゃないのかと半信半疑で訊いてはみたけど、・・・・知ってるなんて。
「知ってて従姉妹を、ましてや女性を、普通そんなお店に勧めるっ?」
「あっちも人手が足りなくて困ってたみたいだから、ちょうど良いかなって」
「良かないわよっ」
もうイヤだこの従兄弟!
わざと足音を発てながらその場を離れようとすればフレンに呼び止められる。
「何よ?」
「はは、怒っても怖くないな」
「悪かったわねっ」
「寧ろ可愛いくらいだ」
「な、バカでしょ!」
サヨナラと自分の部屋に戻る。
鞄を雑にそこら辺に放り出し、ベッドに腰かけた。
フレンはいつもああだ。
ああやって・・・・
「酷いこと、言うんだ・・」
「おー来たかあだな」
「あだな・・?」
言われた通り行けばユーリさんは既に鍵を開けてレジの奥にある小さな事務所で寛いでた。
更に聞きなれない呼び方をして来るものだから思わず聞き返した。
「愛称だよ愛称。良いだろ?言いやすいほうがよ」
「いい、ですけど」
「今日は店長が昼過ぎから来るからな」
店長が居たのかここには、と今更ながら思ってしまう。いったいどんな人だろう。
「てな訳で開店準備すっか。お前はオススメのDVDのコメントを飾るからみんなの目に留まるように書いてくれ。因みにこれとこれな」
渡されたパッケは熟女モノと近親そ・・・・。内容だけで目眩がしそうだ。大体見たこともないのに何をオススメしろと。
十五分後。
「お前は・・何かの論文かこれは」
「いいえ」
「こんな丁寧な長文逆に萎えんだろ」
「その分平和になります」
小さな紙にギッシギシに書き込んだ私は少し誇らしげにしていたら、目の前でグシャッと潰されました。
「書き直しな」
「・・はい」
20130426
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