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散様へ 一万打企画










「あ、」




洗濯物を干しながら心地よい風に思わず瞳を閉じる。

そんな時いきなり後ろから何かが腰に抱きついてきて振り返るとエルが居た。





「ふぁーすとみーっけ!」

「エル様、九才のお誕生日おめでとう」




笑顔で言ってあげれば屈託のない笑顔を見せてくれる。するとヴィクトルが家から庭に姿を現した。





「エル、ふぁーすとは今」

「解ってるしっ!パパはシンパイショーだなー」

「はぁ。ふぁーすともあまり無理をするな。家事は任せてくれと言っていた筈だ」




昔とは違う落ち着いた口調の彼に私は困ったように笑って、




「家政婦ですから」



と一言伝えると、彼は「元、な」と付け加えてきた。





「それに今は君一人の身体じゃない。だから代わりなさい」




今では様になっている言葉遣いは意外と気に入っていたりする。
仕方なく彼にバトンタッチをして干してもらう事にした。
家政婦として雇われた私よりも手慣れた動きをしているんじゃないのか、彼は。





「何だか私よりも向いてるわよね」

「へ?」




隣まで行って言葉を漏らせば昔から変わらない反応を見せてくれた彼。だから好きだ。

というか、何を言われているのか解っていないみたい。





「家事とか、さ」

「よくやっていたからな」

「奥さんが出来てからはたまに料理するだけだったものね」

「ラル、か」




彼は一瞬、仮面から覗く目を伏せたあと私を見ては頬に手を寄せて口付けをした。

ラル様が居なくなってから段々距離を積めた私たち。元々幼馴染みで過去に旅をした私たち・・・。

こんな風になるとは思っても見なかった。

確かに彼はヴィクトル、だ。
けれど私の存在で少しずつ未来が変わっていっている気がする。


それにエルも無事に九回目の誕生日を迎えてるもの。

全部が全部私だけの影響ではないだろうけど、良い方向に進んでほしいと願うばかり。



彼は私を愛してると言って、私も愛してると言う。日課になりつつあるけれどもうひとつ、





「こっちも元気だな」

「ええ、もちろん」




私のお腹を撫でるのも日課に加わりそうだ。

するといつの間にか居なくなっていたエルがまたやって来てまた抱きついてきた。





「エル様?」

「ふぁーすと、髪結んでっ」

「全く、甘えすぎだぞ」

「パパなんか毎日ふぁーすとにべったりのクセにー」




ぷっ、と噴き出すと、笑うんじゃない、と突っ込まれたけれど、図星だからか照れているのが伝わった。





「エル様、結んであげるから中で座ろうか」

「うんっ!あ、ふぁーすと。様、って言うの禁止っ。エルって呼んで」

「はいはい」

「返事は一回っ」

「ふふ、はーい」








結び終わると猫を連れて外へ遊びに行った。どうやら友達が来てくれたらしい。

私はソファで寛いでお腹を撫でる。ここにルドガー・・、基、ヴィクトルとの子が宿っているのかと頬が緩む。
この間ジュードが来てくれて妊娠中のあれこれを伝授・・とまではいかないけど、ためになる話をしてくれて、エリーゼは女の子が良いとかでピンクの物を大量にくれた。





「みんなに感謝、だなー」

「ん?」




干し終わったのかヴィクトルがソファの空いたスペースに座った。





「ほら、みんな色々してくれてるから感謝しないとな、って」

「そうだな。まあ一番は…ふぁーすとに感謝だが」

「え?」




静かに言った彼に、今度は私が間抜けな声をあげてしまった。

そしたら彼は仮面を外して私を見つめる。





「ふぁーすとが居なかったら今頃力を乱用し、身体中が黒くなっていただろうな」

「ヴィクトル・・」

「それに、ここに宿る命も君が居てこそだ」




嬉しくてつい涙が流れる。
そう、未来は確実に変わっていくんだ。


涙を拭ってくれる彼は昔と変わらない微笑みで、私の左手を手に取り冷たいものが指を通る。






「遅くなったが、結婚しよう」

「ルド、・・・ヴィクトルっ…」

「返事は?」

「よろしく、お願い・・しますっ・・」




愛のある限り
変えていこう。

「あーっ、レイアとアルヴィンだっ」
「エルーおめでとう!」
「おめでとさん」
「ありがと!」
「ところでふぁーすとたちは?」
「えっとね、パパたちはオトリコミチューなのっ」
「えーっと?ふぁーすとは妊娠中・・だよね?」
「ああ・・・・」








20121203


お待たせしましたっ。口調も解らないままヴィクトルヴィクトルと悩んでいるうちに何日も経ってしまいました。ごめんなさい。果たして甘く出来ているのか心配です。こんな未来があったらなーと切実に思いながら書いてみました。
リクしていただきありがとうございましたっ。









あきゅろす。
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