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りりん様へ 七夕企画










「ピーチパイ?」

「そ。作れねーの?」





突然彼は調べものをしている私にピーチパイを作ってくれと要求してきた。

けど残念なことに、私は生まれてこのかたピーチパイを含む御菓子と言うものを作った試しがないため、彼の言葉に仕方なく頷く。






「そうか。作ろうと思わないのか?」

「何でよ」

「恋人である俺のために頑張ろうとか無いわけ?」

「ピーチパイならそこら辺で売ってるでしょ」




そう言い放てば、ピーチパイ作れない彼女は痛いな、とかなんとか訳の解らないことをぶつぶつと言い出した。

こんな事・・、即ちピーチパイが作れないだけで愛が崩れるなんて聞いたこともない。そもそもこれくらいで彼女失格と思わせるような言動は控えてもらいたいくらい。





「いつもいつも植物ばっか手に持って」

「当たり前でしょ?世界の植物の調査をしてるんだから」

「仕事熱心は良いことだとは思うが、たまには女らしくさ、」

「・・・」




言われて私は一瞬ときが止まった。

女らしく?

一応女らしくしてるつもり、・・なんだけど。

納得がいかず、本を閉じ力任せに大きな音を起てながら立ち上がった。





「お、おいふぁーすと?」

「煩いわねっ、植物見てくる!」





宿屋を出て気晴らしに市場をぶらぶらしていると、桃の安売りがされているのが目に留まる。

ピーチパイか・・・、アルの大好物だけど作れないんじゃ話にならないしな。

さっきの事をつい思い出していると、おばちゃんが声をかけてくれた。





「お姉さん、今なら桃が安いよ?買っていかないかい?」

「い、いえ・・私は」

「これはピーチパイにすればすごく美味しいよ」

「・・・」






結局買ってしまった。それも大量に。

ぴ、ピーチパイくらい簡単よね。お菓子作りは科学と同じだって耳にしたことあるし、きっとちょちょいのちょいよ。

キッチンを借りようと急いでドロッセルの家へと向かった私はもう、やけくそだった。






「自由に使ってくれて構わないから」

「ありがと、よいしょ・・」

「・・・、ねえふぁーすと」

「ん?」

「桃・・だけで何を作るの?」

「ピーチパイ、だけど」

「・・・・・」




急に無言になった彼女を不思議に思っていると、戸棚から粉やら卵やらを出してきた。





「生地から作らないとパイにならないわよ?」

「そ、そうなの?」

「これ、レシピだから見ながら作ってみたら?」




手渡してくれたのはピーチパイのレシピ。目を通すと以外にも簡単にできそうだった。





「ありがと、ドロッセル。出来上がったら呼ぶね」

「待ってるわ」




そして作業開始・・。

レシピを見ながら思う。
やっぱり、





「科学だわ」





それならば、得意分野とばかりに張り切って作り始めた。






そう、得意分野なのだ。

得意分野・・の、筈なのだ。


なのに、





「どうしてこうなった」




これは一体なんだろう。
見るからにグロテスクな出来映えで、異臭を放っている。

皿に乗せたこの物体Xがピーチパイと言えるのだろうか。

これこそ研究材料にされそうなものではないか。いったいどこで間違ったんだろう。





「・・これは流石に自分でも呆れるわ」




彼を見返してやろうと、彼の為に作って彼の言う女らしさを全面的に出そうとしたけど撃沈だ。





「科学より遥かに難題よ」




誰だ、お菓子作りは科学だとか言い出した奴は・・。

暫くピーチパイ(仮)を見つめていると思わず泣きたくなってしまった。こんな事もできないと、私は彼に見放されるのだろうか。


そんな時、キッチンへと向かってくる足音と話し声に慌ててパイを私の後ろに持って隠した。





「ふぁーすと、終わった?」

「ド、ロッセルっ・・。それがまだなの」

「そう。アルヴィンさんを連れてきたんだけど、」

「え」

「よっ、ピーチパイ作ってるんだって?・・・、なんか変な臭いがするぞ?」





最悪な状況に苦笑いをして私は後ろにパイを抱えたまま後退った。

そんな私を変に思ったのかアルヴィンは私に近づいてくる。広いキッチンの中、決して背中を見せまいと後退りをしながら逃げ回った。





「おいっ、後ろに何持ってんだよ」

「何も無いよっ、あはは、」

「じゃあ逃げずに止まれっ」

「絶対イヤっ」




少し疲れた頃、急に彼の動きが俊敏になってとうとう私を捕らえた。





「見せろっ」

「やあっ!」




強引に背中を向けさせられてしまい、きっとあの物体Xを見たのであろう彼は絶句していた。





「・・・・」

「・・やっぱり私には無理だったのよ」




本当なら美味いって言わせたかったんだけど、これじゃどう考えたって、






「美味い」

「へ、ちょ・・アル!?」




驚いて振り向くと彼は私の作り出した物体Xを一口食べていた。それも少し噎せながら。





「駄目よお腹壊しちゃうからっ」

「何言ってんだよ。折角作ったんだから食わせてくれよ」

「こんなの美味しいわけないものっ」

「美味いぜ?お前の気持ちが入ってんだから」

「アル・・」





そんな事を口にされて、思わず泣いてしまえば目の前の彼はギョッとした顔で慌てだす。

それもその筈。彼の前で泣いたことなんて無かったから。






「ふぁーすと、何泣いて、」

「アルがバカなこと言うからっ・・嬉しくてどうかしそうよっ」

「・・、ハハ。お前な、」




一瞬呆気にとられたようだったけど、少し笑って私の頭を撫でてきた。





「そうやって泣かれると俺としても嬉しいんだよ」

「…?」

「嬉し泣きされたらこっちも嬉しいって事」




ピーチパイ
「アル、まだ半分残ってる」
「あ?あー食う、食う食うちゃんと食うから」
「・・・そ?」
「どうせならもっと美味いの食いたいぜ・・」
「やっぱり美味しくないんじゃない」
「あ、いやその、」
「こんな物捨ててやるっ」
「食うったらっ」







20120710

七夕企画、リクしていただきありがとう御座いましたっ。アルヴィンのピーチパイネタという事でこの作品を書かせていただきました。
書いていて楽しかったです。

これからも応援宜しくお願いしますっ。




あきゅろす。
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