ひまわり様へ 五万打企画
「あ、ミクリオコレなんだけど」
「何だい?」
文書で解らないことがあってミクリオに教えてもらおうと声をかけた。
彼は何だかんだ優しいから訊きやすい。っているうのもあるんだけど、私の勝手なイメージで頭の良い人っていうのが大きかったりする。
ある程度文書の内容が理解できたところで恋人の元へ向かうべく彼を探してみる事にした。それも案外近くに居てすぐに見つかったのだが。
「スレイ!」
「…ふぁーすと、」
思い切って彼の胸に抱きついた。
…彼は最近様子がおかしい。というのも前まで笑って出迎えてくれたり、こうやって抱きつけば抱きしめ返してくれたのだけれど、今は何もしてくれない。
「ねえ、これから少しデートしようよ」
「俺、疲れてるから。その…また今度」
ほら、これだよ。素っ気無いにも程がある。少し前は導師として疲れてるんだろうと思ってたんだけど、毎度毎度こうやって断られるとそんな理由じゃない気がしてきて堪らない。
けれど、彼がそう言うならと私は彼から離れて、疲れてるのにごめんと言い残してその場から去った。
私はもう眼中に無いのかもしれない。そう思ったときもたくさんある。
例えばロゼと一緒に寝こけてたり、それを周りは和やかに見てたけど、私はどうも腑に落ちないで居たのを覚えてる。
ある日、ミクリオが居なくて、遺跡関連の事を聞きたかったのに正直に困った。けど、ミクリオ以上に遺跡に詳しい人物がぱっと浮かぶ。私の彼だ。最近素っ気無いとはいえ話題が話題だから流石に構ってもらえる筈。
ロゼと木陰で話しているスレイを見つけてつい笑顔になりながらも、弾む心で駆け寄った。
「スレイ、これについて教えて欲しいんだけど」
「え?どうして」
きっと楽しい時間が待っているんだと思った私の期待を裏切るように彼からのその怪訝な表情と反応が胸を貫く。
「どうしてって、知りたいから」
「ミクリオに教えてもらえよ、俺じゃなくてさ」
「何でよ?スレイだって詳しいじゃないっ…」
思わず声が大きくなりそうだった。何でミクリオが出てくるの?何で彼は教えてくれないの?
けれど彼の目が怖くて顔を伏せてライラの所へ走って逃げてしまった。
「あら、ふぁーすとさん?」
「ライラどうしよ…、私解らなくなってきた」
「解らなく…、とは」
もう嫌だな。ライラを困らせてバカみたいじゃない。これじゃいけないと無理に笑って顔を上げた。
けどそれでもライラは眉を下げている。
「こんな事言うのもなんですけれど…大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。スレイは疲れてるから、ね」
「スレイさん…ですか」
寝れない…。その日の夜はいつもより寒くて毛布の中でも中々寝付けなかった。ムクリと起き上がってそっとベッドから降りた。
音を立てずに外に出ると泉に満面の星空が広がっている。こうも綺麗に反射するんだ、なんて感動していたらガサガサと物音がして憑魔かと思って武器に手をやった。
けれどそこには憑魔ではなくよく知る人物が立っていた。
「ミクリオ?」
「ふぁーすとか。凄く鋭い視線で見られたからびっくりした」
「ご、ごめん」
二人で苦笑いを浮かべて泉の水面を眺めた。
「ミクリオ戻らないの?」
「来たばかりだぞ。ふぁーすとはどうする?」
「まだ居る」
「なら僕ももう少し居ようかな」
横目でミクリオの横顔を盗み見ると、きれいに眺めていた。彼は優しい。勿論スレイだって優しい。けど、何かあるならはっきり言ってくれそうなのに言ってくれない。
ミクリオは?彼だったらもっと…。そう思った瞬間ミクリオの胸に飛び込んでしまった。
勿論ミクリオは突然の事で驚きを隠せずに手を宙で浮かせて固まっている。
「あ、ちょ…ふぁーすと?」
「…ミクリオを好きになればよかった」
その私の言葉を聞いた後もミクリオはじっとしたままだった。
「ふぁーすと…駄目だ。お前にはスレイが」
「だって…もうどうしたら良いか解らなっ…!!」
肩を掴まれ思い切り引っ張られた。
「スレ、イ…どうしてここにいるの…?」
「…。ごめんミクリオ。ふぁーすとは俺が連れて帰るから先に戻っててくれ」
泉の前で佇むミクリオを置いて突然現れたスレイは私の二の腕を掴んで林の奥へと入り込んだ。
「スレイっ、痛いよ…!」
「……」
強い力で引っ張られて歩いていく。どうしよう、絶対怒ってる。急に怖くなって動揺していたら足が覚束なくて躓いてしまった。
「いっ…、うう、」
「ふぁーすとっ?」
彼の手をすり抜けてしゃがみ込む私の目線に合わせるように彼も屈んでくれる。私が痛がって返事をしない事に焦ったのか、私の膝と背中に手を回して抱き上げられた。ちょっとまって、これって所謂お姫様抱っこじゃ…。
「スレイ、恥ずかしいっ…」
「何言ってるんだよ。座れるところ探すからじっとしてろよ」
大きい倒れている丸太を見つけてそっと私を下ろすと、私の片足を持ち上げた。と同時に痛みが走る。
「捻ってる。ごめん、無理に引っ張りすぎたな」
「ううん…。別にそんな…、私にスレイを攻める権利は無いよ」
「ミクリオが…好きになったから?」
え…私がミクリオを?
なんだか急に悲しくなって鼻のおくがつーんと熱くなった。彼の肩を力の入らない手でパンパンと叩く。
私を見上げてるスレイは切なそうな顔だ。その顔でさえ涙でぼやけて見えた。
「なんで…なんでよぉ…、」
「だって旅してからずっとミクリオトばかりいるし、ミクリオと話してるし…さっきだってふぁーすとから……」
言われてはっとした。スレイはそんな私の無意識な行動に嫉妬してたんだと。そう解った途端申し訳なくってもっと泣き出してしまった。
「ばかぁ!ごめんなさーいっ…うぐ、ごめ、…スレイっ」
「ふぁーすと…」
「好きなの!ちゃんとスレイが好きなの!でも、こんな苦しいの嫌だっ…」
「ああ、俺も好きだ…」
温かいぬくもりに包まれて私は泣き続けた。
泣き止んだ頃スレイと並んで座っていた私は彼の肩に頭を預けていた。
「目、腫れちゃってるよね。明日どうしよう」
「大丈夫だよ」
「最近のスレイの冷たさに耐えられなくて、さっきついミクリオに抱きついちゃった」
「う、ん…」
「ミクリオを好きになれればなって言っちゃった」
「う…ん?」
スレイの様子がおかしいと思って顔を盗み見ると、あからさまに面白くないといった顔をしていて、不謹慎ながらまた胸がきゅうってなって顔が緩む。
「スレイって意外と、やきもち妬きなんだね」
「いうなよ、大体ふぁーすとが、」
「何よ。冷たくしたからミクリオに逃げようとしたんじゃない」
「もういい!こっち向いてくれ」
私が向くよりも彼の手の方が早く私の顎を持ち上げてきた。と思ったら唇を合わせてきた。
久しぶりすぎて固まりつつも動悸が激しくなるのを自分でも解って恥ずかしくなってしまった。
「…、なんだ?初々しい反応だな」
「煩いな…」
そんな二人を知るのは木々から覗く星空だけだった。
「あ、朝帰りご苦労さんお二方」
「それにしてもふぁーすとが捻挫をしているのはどんなわけかしら?」
「スレイ…いくら怒ったからって捻挫させるほど乱暴に扱っちゃいけないだろ」
「はい!恋人とはいえ犯罪になってしまいますわ!」
「ちょっと!?なんか勘違いしてないっ!?」
20150401
これまた遅くなってしまいましたっ。ちょこちょこ書いていて今日漸く出来上がりましたが、いかがでしょうか?
リクエストありがとうございます!
また遊びに来てくださいっ。
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