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葵 梓様へ 五万打企画
main短編の「闇」の続編








「娘、憎悪はないのか?」

「酷いと思うだろう。見捨てられた事実が、お前を醜く蝕んでいるだろう」



誰?誰なの?
私は耳に響いてくる声を不気味に思いながら知らない場所を歩いていた。いつの間にかこの場に居たけど、前にも通った事があるような気がする。けどどうしてこんなに灰色に見えるの?































「スレイさん、怒っていますの?」

「大丈夫だよ、ライラ」



スレイが、ふぁーすとを置いていった。もう着いて来る気はないって聞いたけど…、正直心配だ。




「ザビーダ」

「ん〜?なぁによー」

「ふぁーすとが心配じゃないのか?」

「……どうして俺に振るのかね?」

「仲良かっただろう」



僕以上に。そう言えさえすれば楽になるのか解らないが、言えるわけが無い。そんな僕の言葉をザビーダはため息混じりに聞いていた。



「ミク坊よ、若いってもんは罪だなー」

「は?」

「人がどう思ってるかってより、自分はどう思ってんだって事だよ」



ふぁーすとを置いた事に対してどう思ってるか?…心配に決まっている。昔から泣き虫だった彼女だ。それも一人で居るのが怖いと、よく泣いていた。だから僕が一緒に居て守ってあげないとって常に思ってた。
けれど、旅を始めてからザビーダとよく一緒に居る。僕なんかよりザビーダと居たいに決まってるんだ。



「心配とか、してない…。ただ気になっただけだ」




精一杯の、嘘をついた。




「…、あっそ。なら良いんじゃねーの?」

「ザビーダはふぁーすとを」

「仲間としては最高だって思ってんよ」




仲間として…?
それが無性に聞き捨てられなくてザビーダを睨んでしまった。




「ふぁーすとにとってお前はっ、」

「熱くなんなよ。だから若いって言ってんだ。ミク坊よう、おめーは随分と冷たくあしらってたじゃねーの。あいつが必死に振り向いて欲しくて無理矢理な笑顔でお前に話しかけてたって言うのに」



無理して…笑顔を?いや、そんなはずは無い。ふぁーすとは常に笑顔で楽しそうだった。僕と居なくても、楽しそうだった。
…けれど、誰だって常に笑顔で居られるだろうか…。




「経験が浅いおめーに一つ良い事教えてやるよ」

「なんだよ」

「ふぁーすとはいっつもお前を見てたぜ」

「…」





くだらない。…今更だ。………けど。



「スレイ、一旦引き返し、」



たい、と言葉を続けようとしたら重く圧し掛かる領域が一瞬で広がった。
なんだ…なんなんだ。




「不思議ちゃんね…、姿は見せていないけど」

「サイモンさん、また…」



周りに警戒していたら声が響いてくる。





「貴様らに始末されたいやつを連れてきてやったぞ。存分に争いあってくれよ」


サイモンの声だ。けれどそこにいるのはドラゴンになりかけである小さい竜のような憑魔だった。



「この穢れは、凄そうだよっ…」

「やるしかない…!」




そして戦闘が始まる。けれど、敵が使う技・術になんとなく覚えがあるような気がした。

もうみんなも相手もこちらもボロボロな状態、もうこれしかないと僕は技を繰り出す。




「クリアレスト・ロッド!」

「いやああぁぁああぁ!!」




とどめだと言わんばかりに氷の弾を撃ち込んでいって止めを刺して敵は倒れた。けれど、最後の叫び声は…、一体…。

 浄化された領域と僕の目の前の憑魔だったもの。その目の前のものに僕は目を疑った。それは勿論、みんなもそうだ。



「そんな、」

「なんてこった…」

「……やられたわね」




ずたぼろになった布のように倒れこんでいる、傷だらけのふぁーすとだった。慌てて抱き上げると、傷から血が溢れ出す。




「ふぁーすとっ…ふぁーすと!!」



みんなで攻撃をした相手がふぁーすとだったなんて、おぞましくて手が震える。



「穢れてしまわれていたなんて…」

「ミクリオ退きなさい。ふぁーすとの治療はライラとあたしに任せて頂戴」



ふぁーすとを手放した後、力が抜けてそのまま地に手をついた。




「スレイ…ぼ、くは……ふぁーすとを殺そうと…っ」

「…、俺達も同じだ」

「けどっ、止めを刺したのは僕だ!…動けなくしたのも僕だ…」


スレイと座りこんでお互い黙ったまま時間が過ぎる。
もう頭が回らない。憑魔になったとはいえ、相手はふぁーすとだ。僕が守ってあげたかったふぁーすとなんだ。なのに僕は…僕は…っ。



「ミボ」

「…エドナ」

「感傷に浸るのは構わないけど、運ばせて良いの?あの半裸のバカに」



目をやるとザビーダがふぁーすとを担ごうとしているのが目に飛び込んでくる。



「外傷はある程度塞がっているけど、意識が戻ってないのよ。だからおぶって宿でもどこでも、落ち着ける場所に運ばないと」



エドナの言葉を聞いて立ち上がった僕は真っ直ぐにザビーダへと足を運ぶ。



「ん?ミク坊?」

「僕がする。僕が彼女をおぶるっ…!」

「ほーう…っておい!待てってっ」



無理に彼女をザビーダから退かして僕の背中に乗せると、歩き出した。



「たく。危ねーだろうが」

「まあミボだし」

















宿に到着して僕はベッドに彼女を寝かせる。そっと胸元を広げてみた。僕の最後の一発、やっぱり傷痕が残っていた。


『ジイジぼくね、ふぁーすとを守るんだー』
『ほう、じゃあしっかり守ってやらんとな』
『スレイには内緒だよ!』



ジイジ、僕は僕の手で彼女を傷つけてしまった。落胆しながらすぐ傍にあるイスに座り込む。



「守るってなんだよ…っ」



勝手に突き放しておいて都合がいいにも程がある。いっその事、僕を許さないでくれ、嫌ってくれ。君を守ると一丁前に決心して簡単にぐらついた僕を。






それからいたずらに時間だけが過ぎていった。イズチに連れて帰ってそこで眠り続けるふぁーすと伝えなければいけない事がある。スレイがこの間から、みんなの為に所謂人柱になってマオテラスの浄化に励んでいる事。そして、…ジイジがこの世に居ない事。



「ミクリオ」

「!」

「…泣かないでよ、えへへ」




横になったまま必死に伸ばして僕の頬にそっと触れたそれはとても小さくて冷たかった。僕も距離をつめて彼女の頬に手を滑らせて覆い被さる様にして抱きしめた。情けない、みっともない…。涙を流しながら彼女にすがってしまう。僕を許さないでくれと、嫌いになってくれと望んでいるって言うのに…。



「ふぁーすと…泣いてくれ…っ」

「…え」

「泣いてくれっ…そして…僕から離れないで…傍に居させて」

「…っ、ミク、リオ…っ…、っ」



泣き虫な二人の先には光があることを願う。








「ロゼやアリーシャの所へいこうか。今頃また喧嘩してそうだし」
「ミクリオがいくなら付いて行くよ」
「ふぁーすとを見たらきっと喜ぶ」
「だといいな」






20150228


短編にありました、『闇』の続編です。まさかこちらの続編のリクエストをいただけるなんて、とても嬉しいですね。本当にありがとうございます。このような内容でしたが良かったのだろうかと書き終えたときに不安だらけ←
喜んでいただけると幸いです。
また是非あそびにきてくださいね。





あきゅろす。
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