美羽様へ 七夕企画
お風呂から上がるとあのふぁーすとがブランコに乗って珍しく読書をしてた。意外に思ったぼくは話し掛けずにはいられなくて彼女の前まで足を運んだ。
「珍しいですね、貴女が読書なんて」
「そう?」
「はい。あなたに字が読めるとは思いませんでした」
いつもならここで言い返してくるのに本に夢中のあまりまともに受け答えが出来ないらしい。僕の言葉を聞いてないみたいでなんだか癪だ。
「ふぁーすと、」
「ん〜?」
「何読んでるんですか?この家で見たことない本ですけど」
「おとぎ話とか色々載ってる本。街で見つけてつい買っちゃったの」
「へー」
おとぎ話なんて、なんともふぁーすとらしいと言うかなんというか。
ブランコから降りて今度は絨毯の上で本を読み始めた彼女は、全くぼくを見ようとしなかった。
「そう言えばキュッポ達は?」
「なんか今日は帰らないって言ってさっき出掛けちゃった」
「じゃあ二人だけですか。嫌になりますね貴女とふた、」
「あーもー、今良いところだから話し掛けないで」
「・・・・」
如何にも邪魔くさいとでも言いたげな表情をされてしまった。あのふぁーすとにそんな顔をされるなんて。
・・・上等だ。意地でも邪魔してやろうじゃないか。
そうしてひっそりと闘争心をメラメラ燃やしながらふぁーすとの隣に密着するように座ってみる。
「ちょっと読みづらい」
「ふぁーすと、髪結ってください」
「いつも自分でしてるじゃん。それにもう寝る時間だし面倒なら結わなきゃいいよ」
見事に打ち返してきたふぁーすと。
会話をしていてもふぁーすとがぼくを見る気配は全くと言っていいほどない。
面白くない、実に面白くない。
「ジェイ?」
「・・・」
漸く彼女が見たのはぼくが彼女の膝の上に無理矢理頭を乗せてから。
「何ムスッとしてるの?」
「知りません」
「こっち見てよ」
「知りません」
そもそも最初に見なかったのはふぁーすとじゃないか。
「怒ってる?」
「知りませんってば」
「んー・・、ジェイはもし私と一年に一回しか会えなくなるとしたらどうする?」
「知りませ、・・って、は?」
前触れもなく変な事を訊いてきた彼女に思わず目がいく。
するとふぁーすとは小さく微笑んでいて何かあったのかと居ても立ってもいられずに、膝から頭を退けて彼女と向き合う。
一年に一回しかって、何でまた急にそんな事を言い出したのか僕には理解できない。
「・・何かあったんですか?」
「え?」
「ぼく、イヤですよ。一年に一度だなんて」
不満でもあるのだろうか、ここに居て嫌なことでもあるのだろうか。
だとしたらぼくだ。嫌がらせのようにいつもひねくれた態度ばかり彼女に取っていたから。
「出ていくんですかっ?」
「ちょっと落ち着いて、」
「答えてくださいっ」
いつの間にかぼくはふぁーすとを押し倒してた。彼女もいきなりの事で大きな目をさらに大きくしてぼくを見る。
「ジェイ、私はどこにも行かないよ」
「だけど、」
「これだよこれ」
ふぁーすとはさっきまで読んでいた本を自分の鼻先くらいまで手で持って見せた。
「この中の話のひとつにそういう話があるの」
「はい?」
「ヒコボシとオリヒメは愛し合ったけど、お仕事をちゃんとしないから皆が罰として二人の間に大きな星の川を作ったんだって」
話し始めたふぁーすとをじっと見つめると彼女は儚げに微笑んだ。
「で、一年に一回しか会えなくなったって話なの」
「それであんな質問を?」
「そうだよ。まさかこんな事になるとは思わなかったけど」
やってしまった。ぼくの早とちりでふぁーすとを押し倒してしまうなんて、痛恨のミスだ。
冷静を装って隣に腰を下ろせば彼女も起き上がってぼくをニヤニヤしながら見てくる。
「私と離れるの、嫌なんだ?」
「別にそういう訳じゃないです。キュッポ達が悲しがるからです。ぼくはどうでも、」
「はいはい解りましたよーだ。ジェイが私の事大好きなのよーく解ったから」
「だからっ」
「ジェイが私を好きならしょうがない。ずっと一緒に居てあげる」
顔から火が出そうなくらい赤くなってるであろうぼくはその本を取り上げしおりが挟んでいるところを読んでみる。
「あーっ、私まだその先読んでないのに!」
「煩いですね、貴女が正しい事を言ってるのか確かめてるんです」
「ジェイのいじわる」
「・・・」
「ジェーイー、早く読ませてよ」
本を奪おうとするふぁーすとの手をヒョイと避けて本を読み続けた。
「ふぁーすと」
「何よ」
「この本によると、この二人が会えるのは七月七日らしいです」
「そうだよ?」
「そしてそれ以来その日は願い事を紙に書いて笹という木に吊るすそうです」
「まだそこまで読んでない」
所謂ネタバレというのをしたせいか、ふぁーすとは不機嫌にぼくを睨んでぼくから本を奪った。
「・・・ジェイのバカ」
「ごめんなさい。でもふぁーすとが悪いんですよ?」
「悪いことしてない」
ぼくを放っておくから、ぼくを乱すから、ちょっかいをかけたんだ。ふぁーすとが悪いんだよ。
「七夕か、」
「・・願い事でも書くんですか?」
「意地悪なジェイには教えないんだから」
「けど、七月七日はもう過ぎちゃいましたよ」
後ろからふぁーすとを腕に閉じ込めたら意外にもじっとしてくれた。
「いいもん。今は願い事叶ってるし」
「どんな?」
「ジェイやキュッポ達と一緒にいたいってお願い」
ねがいごと
「ジェイ本読むから退いて」
「・・・(起きたら本を隠してやる)」
20120710
リクしていただきありがとう御座いましたっ。構ってジェイくんで七夕の仄甘という事で書かせていただきました。如何だったでしょうか?構ってくれっという雰囲気は出しきれているでしょうか?(>_<)これからも頑張りますのでまたいらしてくださいね。
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