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るあ様へ 二万打企画








「ねぇ聞いてよユーリっ、またラピードが私のビーフジャーキー食べたんだよっ」

「はいはい…あ、」

「ユーリ?」

「わりっ。おーいエステルー!」



ユーリは旅を始めてからいつもこうだ。

昔はよかった。ユーリもフレンもいつも私に構ってくれてた。けど今はどうだ。二人とも二言目にはエステルエステル、エステリーゼ様エステリーゼ様って。


そりゃお姫様だもんね、しっかり守らないといけないよね。

でも、…。




「こんなもんだろ」

「すごいですユーリっ」



遠目で見てもやっぱり癪だ。目に毒だ。
ユーリはいつだって構ってくれてたのに、私と居てくれたのに、ユーリが…大好きなのに。

あーあ。この想いも一生伝わらないんだろうな。何かと鈍感だし。特に近くに居すぎた私の気持ちになんて微塵も気づくはずないものね。




「ふぁーすと?浮かない顔だな」

「…別に?フレンはいいの?オヒメサマの傍に行かなくて」

「あ、ああ。今は目の届く所にいるからね。ユーリもいるし」




何だかんだで信頼してるんだな、なんて、当たり前か。二人はいつだってこうだし。

でもやっぱり、フレンもそわそわしてる。あっちに加わりたいんだろうな。




「フレン、行ってくれば?」

「けれど君が、」



そんな事だろうと思った。私が不貞腐れてるから気を遣って私の相手をしてくれてる。

何だろう。その気遣いに寧ろ腹がたつ。





「行けば良いでしょっ?無理して私に気を遣わなくて良いんだからっ…」

「無理だなんてそんな、」

「みんなっ、あの子に夢中なんだから行けば良いっ。フレンも…ユーリも!大事な大事なあの子の所にっ」




ペチっと頬が少し熱くなる。
軽く叩かれたんだ、…ユーリに。息を飲んで不機嫌そうなユーリを見上げた。




「何熱くなってんだ。落ち着けよ、みっともねぇ」

「……」

「それに不満があるならこのメンバーから抜けろ」



言葉が出なくて俯いた。視界にユーリの足と私の足。今凄く近くに要るのにな。最悪な空気だから苦痛でしかない。




「女の嫉妬って見るに耐えないわよね〜」

「──っ、私は別に一人で良いっ!!」




たかみの見物をしてたリタの言葉に、カッと熱くなる。悔しい、悔しいっ…。

堪らず森の奥に一人、"逃げ"てしまった。物凄くカッコ悪いし、恥ずかしいし…。これじゃまるで子どもだ。

それにしても叩かれるなんて初めてだな。弱かったけど。叩かれた頬に手を添えてその場に座り込んだ。





「痛いな・・」



うん、痛い。頬じゃなくて心が。重たい石がのし掛かってきた気分だ。





「バカぁ…痛い、痛いよ・・」




フレンのバカ。ユーリはもっともっとバカ。……そして一番の大バカ者は、私だよ、バカ。

思わず涙を流すまいと唇を噛んで上を見上げる。でもそんな事で都合よく流れない涙でもないみたいで目尻から溢れ出た。


私はこれからどうしようか。下町に居場所なんてないから大好きなユーリを勝手に居場所にして旅に付いてきたのに、もうそれも危うい感じだな。

大木を背凭れにしてただ上を見上げていたらポツポツと雨が降ってきた。木の下に居るからってこの大雨じゃ水滴を避けるなんて無理だった。

私の顔を濡らすのは雨なのか涙なのか解らなくなる。

静かに顔を下げるとすっかりべちゃべちゃになった地面で、腰から下は泥だらけだ。





「何か、気分良いな…」




ゆっくり目を閉じてまた涙が流れるのを感じた。










もう戻らない。

『ふぁーすとっていうのか?』
『う、ん』
『んじゃあだなor愛称って呼ぶか。これから宜しくな!』
『よ、…よろしく』


あの頃には、もう

『わたしたち、いつも一緒だよっ』
『とうぜんだろ!』
『ふぁーすともユーリもはしゃぎすぎだ』


“このメンバーから抜けろ”


───戻れやしないんだ。









「あ、れ?」



私寝ちゃってたのか…、ずっとここで。雨もすっかり上がってるみたい。
それにしてもこんなに暗くなっても探しに来てくれないなんて本当に見捨てられたかも。


濡れた服のせいで冷えきってしまった体は、全然言うことを聞いてくれない。

力が入らず、倒れ込んだ。息苦しい、熱い…寒い…、風邪引いちゃったんだろうな。
私はこのまま消えちゃうかもしれない。でもそれでも良いのかな。
霞んできた視界の中、ぼんやりとそう思えてくる。しかも自棄に落ち着いて。





「ふぁーすとっ!」



慌ただしい足音と、誰かの声。
朦朧として誰のものなのか解らなかった。ゆっくり体を抱えられてうっすら目を開くと、




「しっかりしてくれっ」



切羽詰まったフレンの顔だった。

ユーリなわけないか。





「ユー、…リ」

「…ふぁーすと」



フレンに抱き抱えられながら意識が途切れた。










「──ったんだ!!!」

「!?」




誰かの怒鳴り声で目が覚めて勢いに任せておき上がった。あの後フレンがここまで運んでくれたのかな…。

頭にタオル、暖かい毛布。服も替わってる。




「あら、目が覚めたかしら?」

「ジュディス…」

「ほら、横になって。振り返したら大変よ?」

「ありが、」

「君は本当に解ってないなっ!!」




今のはフレンの声?
こんなに怒鳴るなんて何かあったのだろうか。思わずジュディスに視線を向けると、珍しく苦笑いを見せて、私の頭を撫でる。




「ユーリとフレンよ。今は出ない方がいいわ。巻き込まれたら堪ったもんじゃないもの」

「でもいつもより酷い感じだけど」

「一つ言えるとしたら、貴女が愛されてるって事ね」




まったく理解できず、二人の言い争いは続く。





「お前があだなor愛称といりゃいーだろっ」

「まったく、本当に馬鹿だな君は!僕だってふぁーすとをいつも笑顔にしたり楽しませたり守ってあげたりしたいさっ。けど僕じゃ役不足なんだよ」

「何言ってんだよ、いつも一緒にいて…。結局お互い想い合ってんならさっさとくっつけってんだ!」




一気に目を見開いた。
想い合ってるって、フレンと私が?
話の流れからすればそう捉えるけど、でも…私は……。




「だから君はバカなんだよっ…。僕は確かにふぁーすとが好きだ……。けどふぁーすとは、」

「私が好きなのはユーリだもん!」



テントから身を乗り出して二人を見上げた。体調はまだ全然だめで手を地面についちゃってるけど、いてもたってもいられなかった。





「あだなor愛称、お前…」

「フレンも大好きだけど…一番はいつだってユーリなんだからっ…」



鼻の奥がツーンってして思わず泣いてしまった。ユーリは已然として驚いた表情を変えない。




「ユーリがどう思うかなんて知るもんですかっ。兎に角私はユーリが大好きなの!」




漸く表情が穏やかになったユーリが膝間付いて私の体をゆっくり抱き上げた。




「…ユーリ?」

「たく、寝てないと風邪治らねーぞ」


フレンも凄く穏やかな表情で抱えられる私を見送ってくれた。

テントに入れられると何故か笑っているジュディス。




「貴方も素直じゃないわね」

「ジュディ、お前いたのか」

「みんないるわよ?寝てるけど」



それじゃリタのテントに戻るわね、って言い残して出ていったジュディス。




「……」

「…、?」

「……」

「ユーリ?降ろしてよ」



私の言葉を聞くなり、慌てて降ろしてくれたユーリは心なしか目線がうろうろしている。





「ユーリ、色々ごめんなさい」

「ああ、…って、は?」

「ユーリの言うとおり私はメンバーから抜ける。今までお世話になりま、っ」




いきなり暖かいものに包まれた私の体。ユーリに抱き締められたんだと理解した途端、余計に体温が上がった気がしてならない。




「だめだ」

「でも、ユーリ」

「それになぁ、言い逃げは狡いぞ」




オレだって好きだ。

「おはようございます。気分はどうですかふぁーすと?」
「う、うん…昨日よりは平気」
「良かったです!ほらリタ!」
「わ、解ってるわよっ。昨日は、その…」
「リタ、私リタの手料理食べたい」
「!…もうほんっとアンタはっ」
「リタ!?何故泣いているんですっ?」
「そして横で転がるアンタもいい加減そこ退きなさいよ!!あだなor愛称が寝苦しいじゃないっ」
「ぐぉっ!?」




20130226

ユーリの微除け者切甘とのことで書きました!いかがでしょうか?大分時間がかかってしまってごめんなさい(>_<)
最後は何だかんだみんなに愛されるヒロインちゃんでした。
リクありがとうございました。







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