まい・でぃあー 03
「ダメです。」
「えーっ?どうして?」
ここに住まわせてと無理難題を持ちかけてきた彼女にぼくの返事は勿論ノーだった。
そりゃあそうでしょ。見ず知らずの人をそこまで面倒見るほどぼくはお人好しじゃないし。
「そんなこと言わないで?何でもしてあげるから〜」
「言います。第一貴女はモフモフ族が苦手のようですし」
「モフモフぞく?」
「さっきの賢く可愛らしい頼れる生き物の事です」
「ゔー・・・・」
ふぁーすとさんは何の事か察したのか、体を硬直させてチラッと階段の先の二階を見た。
「でも貴方と一緒にいたいの」
「は?」
「貴方に興味があるから」
「・・・どうしてです?」
「だって私の王子さまだもん」
これだ。二言目には王子王子とバカの一つ覚えみたいに言ってくる。
「残念ですけど、ここはモフモフ族の村で、貴方が住むのは無理かと思います」
「王子はどこに住んでるの?」
「ここです」
残念でしたね、と笑顔で言ってやれば彼女は何かを決意した表情で顔をあげる。
「わかった!」
「はい?」
「ねえ王子、私あの子達を克服するっ!そしたら一緒に居て良いんだよね?」
「それは、」
まずい、この人ならやりかねない。ぼくはなんとか打開策を考えようとした瞬間、二階からピッポが顔を出した。
「ピッポは大賛成だキュっ!ジェイっ、その子は可愛いキュ。見逃せば後悔す、」
「やあぁぁっ!」
いや、・・・この怖がり様からして克服なんて無理だろう。なら別に彼女の意見を認めたところで問題はない。
ピッポが二階へと首を引っ込めて会話を再開する。
「いいですよ」
「え?」
「貴女がピッポ達への苦手意識を克服すれば、ここに住んでも構いませんよ」
「ほんとっ?」
「はい。・・ま、無理でしょうけど」
「?、何か言った?」
「いーえ?何も」
彼女はなんとも言えないような屈託のない笑顔で僕を見たあと、
「ありがとうっジェイ!」
嬉しさのあまりか僕に抱きついてきた。それも勢いよく。さらに言えばぼくの名前を呼びながら。
そしておまけにたおれこむ。
「ぼくの名前、」
「やっぱり違うんだ・・」
「・・っいいから退いてくださいよっ!こんなとこ誰かに見られたりでもしたら、」
「誰かって誰よ?ジェージェー」
「・・・・・」
ぼくの事をこんな風に呼ぶ人は一人しかいない。
だとしたら最悪だ。
彼女を上に乗せたまま隣を見上げると、悪魔が立っていた。
「ノーマ・・さん?」
「あの、この人は?」
「ふっふっふっ・・・ジェージェーのイケナイ情事を知っちゃった」
情事ってなんだよ、どこまでもネジが外れてるんですか貴女は。
小さく不気味な笑い声をもらしながらぼくとふぁーすとさんを気持ち悪いくらいの笑顔で見ていた。
「ジェージェーも隅に置けないなぁ?こんなに可愛い子連れ込んじゃってさー」
「いや違、」
「ねーねー、あんたってジェージェーの何?何なの?詳しーく教えてよ」
ぼくを無視するんですかノーマさん。
そしてぼくの上で僕に抱きついてる形の彼女はきょとんと目をパチクリさせていた。
そしてゆっくりと口を開き、
「王子とは」
「は?王子?」
「いや待ってください」
早速しでかしてくれた。
「王子って・・・。ジェージェーって、そんなプレイがお好みかぁ」
「染々とプレイとか言わないで下さい」
虫酸が走りますと呟く。
あー、こんな事になるなら初めから名前を教えるべきだった。
「んで?この変態王子とは?」
「・・・変態なの?」
「違いますから退いてくれま、」
「ほらほら答えるっ」
「私と王子は今日会って、」
「うんうん」
「何度も抱き合うようになって今に至り、ます」
「・・・・・」
「・・・・・」
「王子も貴女も、どうかしたの?」
色々語弊がっ。
いや、合ってる・・合ってるかもしれないけどもっ意味合いというものが。
これは勘違いされてもおかしくない。いや、バカなノーマさんなら解らないかもしれないし、ああ、そうだよ大丈夫大じょ、
「あー、と・・。ジェージェーってさ、・・・・・結構軽率?」
「・・・・」
「うんうんうんっ、人それぞれだってあたしは思うから、さ!」
「・・・ノーマさん、違うんで、」
「あたし急用思い出しちったー。あは、あはは!んじゃお邪魔しましたっ!」
颯爽と家から出ていったノーマさん。
ダメだっ、こういう話題だけ彼女は歩くスピーカーだ。
ニヤニヤしながらセネルさんやクロエさんに言うのが目に浮かぶ。最悪の場合あの馬鹿山賊にまで・・っ。
さっさと捕まえないとっ!
上に乗っていたふぁーすとさんを無理に下ろしてノーマさんを追いかけようとする、も・・
「どこいっちゃうの?」
「捕まえに行くんです!ここで待っていてくださいっ、いいですねっ?」
こくりと頷いたのを確認してからノーマさんを追いかけてなんとか連れ戻した。
そして今日の出来事を全て、そうもうす・べ・てっ!話すとノーマさんは詰まらなそうに納得してた。
「なーんだ。ジェージェーがとうとう大人の階段のぼった・・うんや、上りすぎたのかと思ったよ」
「なんですかそれ」
「じぇーじぇー?」
「そ。ジェイじゃん?だからジェージェー」
「やっぱりジェイだったんだ、王子」
ぼくは疲れはてて返事もしなかった。(面倒だったからだけど)
「って事はここに住みたいってんでしょ?住まわせてあげなよ」
「そんな小動物を拾うかのように言わないで下さい」
「飼ってんじゃん。いっぱい」
「モフモフ族は違いますっ」
「でもあだなかわいそーだよ〜?」
「(あだな…)他人事のように言いますけどね、これは」
「ジェージェー、あだな」
「…?」
隣にいるはずのふぁーすとさんに目をやればとんでもないことになっていた。
自棄におとなしいかと思ったらふぁーすとは顔面蒼白で固まっていたから。
「やっぱり可愛いキュ」
「・・・・・」
何故なら彼女の膝の上にピッポが乗っかっていて、顔をまじまじと眺めていたのだ。
いつのまに来たのかも解らないが、ピッポは短い尻尾を左右に揺らしてる。
「ピッポ、何して・・」
「この子、動かなくなったキュ」
「ははーん、動物がダメなんだー」
「そう言うことです」
だからここに居座らせないで済むんですけどね。
ノーマさんはと言えば、膝でふぁーすとさんの前まで前進すると顔の前で手をヒラヒラとさせる。
「気ぃ失ってんねーあだな」
「はい、この調子じゃここに居るなんて言語道断でしょう」
そして暫く考え込むように手を顎につけたあとに閃いたように手を叩く。
「よしっ」
「・・変なこと考えてません?」
「まあ、あたしにまっかせなって!」
20120731
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