[携帯モード] [URL送信]
まい・でぃあー 02









「きゃああぁあぁぁあっ!!」




倒れた彼女をぼくの家に連れていって約一時間半。耳が痛くなるほどの叫び声が家中に響き渡った。

部屋から出て階段を降りるとピッポが困ったような顔をしてぼくを見てくる。

そしてブランコから落ちたのであろう彼女はぼくに救いの眼差しを送ってきた。





「おうじ〜」

「・・・・」




王子ってなんだ王子って。ぼくも名前を教えてないのが悪いのかもしれないけど。

でもだからと言って初対面で王子と命名される筋合いもないし非常識過ぎる。






「起きたんですね」

「起きたけどスゴい悲鳴だったキュ」





確かに酷かった。大体なんでこんなに可愛らしいピッポやキュッポ達を嫌がるんだ。感性を疑う。






「貴女はどうしてぼくに着いてきたんですか?」

「・・・」

「・・・」





お得意のだんまりですか。彼女の視線を辿ればピッポへと向けられている。これじゃ話もできやしない。







「ピッポ、悪いんだけど」

「解ってるキュ。一旦ジェイの部屋に行ってるキュ」

「ありがとう」





階段を上がって部屋へと入ったピッポを確認すると彼女へと目を向けた。






「さて、これでお話ができますね」

「もう居ない?」

「居ませんから出てきてもらえます?」





警戒しながら周りを確認してぼくに駆け寄ってきては抱きついてきた。





「何で抱きついてくるんですかっ」

「だって安心しちゃって。やっぱり私の王子さまだね」

「あのですね、ぼくには名前があるんですよ」




そう言って彼女を引き剥がす。言われた彼女はキョトンとしていた。





「それもそうだよねっ、で王子の名前は?」

「貴女から名乗ってはどうですか?」

「私から?えっとね、ふぁーすと」

「・・そうですか。で、何でぼくに着いてきたんですか」

「狡い王子っ。名前教えて貰ってないっ」

「質問に答えてください」

「酷いよ王子。話が違うよっ」





まあ彼女の言う事がごもっとも何だけど、教えたら教えたで面倒くさい反応をしてき、




「ジェイっ、お話はすんだキュ?」
「ピッポっ!部屋にいるっていっただろっ?」

「や、やあっ!」





名前を知られたと慌てるけど、彼女はそれどころじゃないらしく、怯えて僕の後ろで小さくなってる。






「ごめんだキュ。戻るキュ」





残念そうに戻っていったピッポには、ホタテをたくさんあげようと誓う。






「さて、どうして貴女は」

「ジェイ」

「・・・・・」





ちゃっかりしてる。
ほんとにちゃっかりしてる。

ちゃんと聞いてたなんて。






「何です?それ」

「だってさっきの生き物がジェイって」





しらを切ってみると、彼女は首をかしげる。







「誰の事やら」

「違うの?」

「さあ?」

「・・男の人には名前は与えられないものなの?」

「はい?」





今この人、何て言った。

男の人には名前が無いのかって?
人間なんだ、常識的に考えればあるに決まってるじゃないか。でも目の前の彼女はキョトンとして僕を見つめるだけ。







「貴女、僕は人間ですよ?名前があって当然、」

「良かった。男の人も名前はあるんだねっ」





いちいち引っ掛かる言い方をする彼女に疑問を抱いた。

男の人男の人って、・・・そう、まるで





「男の人を知らないみたいだ」

「そうなのっ!男の人とお話をするのは初めてなのっ」




まさかとは思ったけど嬉々として話す目の前の彼女は肯定した。

あり得ないだろう。大陸にだってわんさか男性がいた筈だし、話さないなんて。





「どういうことです?」

「最近父様が亡くなったって通知が来て、外に出られるようになったの」

「はあ・・」





事情を知らないぼくには彼女が言っている事はもうチンプンカンプン。

父親に監禁されていたのだろうか。






「貴女、監禁でもされていたんですか?」

「いいえ?」

「ならなんで、」

「屋敷に仕えてる人達は皆女の人だったの。お客も屋敷内には入れてはいけなくて。それで男の人を見たことなかったの」

「いや、可笑しいでしょう。外に出れば男の人なんて、」

「出してもらえなかった。でもね、お庭が広いからあんまり不満には思わなくて。それに私のお屋敷、森の中にひっそりあったし街とは離れてるから窓から見るなんて事もないよ」





とても温室育ちらしい彼女が笑顔で話す。






「でも父親が亡くなってから、出られるようになったっていうのは」

「外に出すなっ、って言う存在が居なくなったから普通に出られるようになったよ。実際に父様とは面識はなかったけど」

「娘に会わず閉じ込めるとは。貴女の父親も中々酷な育て方、」

「違うっ」





急に声を張った彼女に驚いて見開いた瞳を向けた。






「父様はいつも手紙を書いて下さったし、誕生日になれば贈り物をしてくれたよ?」

「・・そうですか」





彼女が頬を膨らませぼくをじっと見てきた。なんと言うか、見た目より中身は子供だ。






「話が反れましたが、理由になってないです」

「え?」

「僕に着いてきた理由が」

「この遺跡船に来るまで男の人って何か野性的だなって」

「また訳の解らないことを、」

「だってなんと言うか同じ人間なのかなって。獣のようだし」




今の言い方は語弊を生む。男性に何かされたのかこの人は。





「野蛮に見えて近づきたくなかった」

「やっぱり理由が解りません」

「絵本で読んだ王子のようだったから」

「・・・・・・」





絵本の王子?

どこまでおめでたい頭をしているんだろうこの人は。

目の前で上機嫌なのはいいが、僕としては笑えない。そんな変な理由を叩きつけられても、頭を抱えるのはやっぱり僕なんだ。

解決の兆しが見えない。








「だから付いてきたんだよ」

「はあ、・・百歩譲ってそれを理由として、僕にどうしろと?」

「ここに住まわせて?」

「は?」






もうぼくはこの人、ふぁーすとさんの発言についていけない。








20120725




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!